第2章 第11話「出発の支度」
第2章 第11話「出発の支度」
翌朝、机の上で二枚の紙を並べた。
片方にはスイーネ港へ行く計画、もう片方には昨日の帰りに見てきた品の値段が書いてある。市の日に合わせるなら、出発は明後日だ。まず三人と馬の予定を確かめ、それから仕入れに取り掛かろう。
書いたことを読み直し、財布と一緒に鞄へ入れた。庭の荷馬車を通り過ぎるときには、空の荷台へ一度目を向ける。今日買ってくるものが、あそこに載る。
*
冒険者ギルドでは、ロイたちが掲示板の前にいた。
声を掛けると、三人は空いている卓へ移ってくれた。俺は計画の紙を広げ、スイーネ港の市場へ行き、朝に出発して、その日のうちに戻るつもりだと話した。
「街道を通る。市で売る時間と、港の品を見る時間を取るつもりだけど、遅くまで残るつもりはないよ」
出発日を伝えると、ニーナが帳面を確かめ、ロイとメアリへ目を向けた。三人の予定は空いていたが、それだけで話を決めず、受付で経路の情報も聞くことになった。
職員に最近の街道の状況を確かめ、三人が引き受けられる範囲であることを確認してから、依頼の手続きへ進む。日程、行き先、出発と帰還の予定を、一つずつ記録してもらった。
「食事は、俺が用意する。三人で一日、銅百五十枚の条件でいいか?」
「ええ。食べるものは、持っていくの?」
ニーナに聞かれ、出発前に食べる分と、道中や市場で食べられるものを用意するつもりだと答えた。好き嫌いだけでなく、食べられないものがないかも聞いておく。
契約の内容を確かめ、ギルドを介した支払いの手続きを済ませると、ロイが控えを見てから、俺へ向き直り、
「じゃあ、明後日の朝。門へ行く前に、荷馬車のところで落ち合おう」
「分かった。家の場所も伝えておくよ」
集合場所を話す間、メアリは紙の端へ簡単な道順を書いていた。ニーナは荷車と馬の周りを出発前に一緒に見ようと言い、俺も頷く。
これで三人に、来てもらえる。
昨日は顔を知っただけの相手だったが、今は同じ日に、同じ荷馬車のそばへ集まる約束ができた。鞄に入れる控えが、また一枚増えた。
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貸し馬屋では、行き先と日程を伝え、荷車へ積む予定の品も説明した。
選ぶつもりでいるのは布と縫い糸、針だった。大きな荷をいっぱいに積む予定はない。初めての行商であることも改めて伝え、馬と馬具を借りる費用を確認する。
荷車を確かめるため、翌日の午後に店の男が実家へ来てくれることになった。出発の朝は馬を連れてきてもらい、荷車へつなぐところを一緒に確かめる。その分も含めた支払いを聞き、予定に書き加えた。
「戻ったあとは、荷を下ろしてから返しに来ます。店が閉まる前に間に合うように、港を出るつもりです」
「帰るのが遅れそうなら、無理に馬を急がせるな。その場合の扱いも、今聞いておいてくれ」
俺は頷き、予定が延びたときの費用と連絡についても確かめた。朝に受け取って帰りに返す、一日の利用。それを決めるだけでも、昨日までに聞いておいたことが役に立った。
店を出て紙を見直すと、馬と護衛の費用が決まっていた。食事や市場で払う分も残し、帰りの買い付け用には別に金を取っておく。これで、行きの商品に使う範囲を決められる。
財布を鞄へ戻し、仕入れ先へ向かった。
*
布を扱う店では、見せてもらった品を卓へ広げた。
普段使いの丈夫な布だ。端を持ち、光へ透かして織り目を見る。表だけでなく裏へ返し、途中に傷や汚れがないかを確かめた。
ここは商会にいた頃にもやってきたことだった。店の男は俺の手元を眺めて、
「見るところは分かっているんだな」
「帝都の商会で、三年働いていました。独立して仕入れるのは、今回が初めてですが」
「どこへ持っていく?」
「スイーネ港です。市場へ出すつもりで」
男は別の布も持ってきてくれた。色や手触りは違うが、値段も変わる。俺は順に触り、昨日の相場の書き込みと比べてから、最初に見た丈夫なものへ戻った。
きれいな色に惹かれても、それだけで買う理由にはできない。まずは用途を説明しやすく、自分で品質を確かめられるものを持っていきたかった。
「こちらをお願いします。まとめて買う場合の値段を、もう一度聞かせてもらえますか?」
量と代金を確認し、買い付けた。控えを受け取り、荷を受け取る段取りを付けてから、縫い糸と針の仕入れ先へ回る。
糸は巻き方と状態を見た。針も包みを開けてもらい、曲がったものや傷んだものが交じっていないかを確かめる。細かいものほど、帰ってから数え直すのは面倒だ。
売り台へ並べるときには、布だけでなく、縫うためのものも見せられる。どれをどれだけ持つか、扱う場面を想像しながら選んだ。
代金を払い、受け取った包みを鞄へ収めると、店の男が笑って、
「初めてにしては、落ち着いてるじゃないか」
「今は見慣れた品ですから。港で自分の思ったように売れるかは、これからです」
「まあ、行ってみないと分からんこともあるな」
俺もそう思った。港の相場と、仕入れの値段の間に差はある。予定どおり売れれば費用を賄える見込みだが、運んだだけで、その差が全部手元へ残るわけではない。
それでも、包みの中身は俺が選んだ品だった。誰かに買ってこいと言われたものではない。手に持つ重さを確かめながら、帰って早く荷を広げたくなった。
*
午後には食料と旅用品の店を回った。
四人で食べる分を考え、パンや保存の利くものを選ぶ。出発の朝に受け取るものは注文しておき、持っていく水の用意も忘れないように紙へ書いた。
縄は荷を固定するために、雨具は自分が濡れないために必要だった。荷台に覆いが付いていても、御者台から降りた俺まで守ってくれるわけではない。小さな傷の手当てに使う布も、自分の分を用意しておく。
ゴードンさんに教わった構えで扱える剣も選び、鞘と一緒に受け取った。腰へ下げてみると、歩いたときの重さが気になる。抜く練習より先に、これを持って邪魔にならず動くことを確かめておきたかった。
家へ戻る頃には、鞄の中に包みと控えが詰まっていた。
納屋へ入って品を並べると、朝まで空いていた棚が、ようやく商品を置く場所になった。布を広げて確かめ、糸と針を数え直す。買ったところの控えを脇へ置き、帳面へ書き写していった。
箱へ収めた荷を庭まで運ぶと、母が戸口から見ていた。
「それを売りに行くの?」
「ああ。明後日、港へ。日帰りのつもりだよ」
「食べるものは、ちゃんと用意した?」
「俺の分も、護衛の三人分も。朝に受け取るパンも頼んできた」
母は箱の中を一度覗き、俺の腰の剣へ目を向けた。少し間を置いてから、
「慌てて怪我をしないようにね」
「分かってる。これも、むやみに使うつもりはないよ」
母が家へ戻ったあと、俺は荷台へ箱を置いてみた。布を積み、細かい品の箱を寄せると、自分の食料や道具を置く場所も残る。
縄を掛け、縁へ留める。ぐらつかないか確かめてから解き、今度は荷を取り出しやすい向きを考えた。急いで品を出すたびに全部を崩していたら、市場で困る。
気づくと、庭の影が長くなっていた。今日は配置を確かめるまでにして、商品は納屋へ戻す。戸締まりを確かめてから家へ入ると、指先に縄の感触が残っていた。
*
翌日は、残った準備と確認に使った。
午後、貸し馬屋の男に荷車を見てもらい、積む予定の品も見せた。朝の受け取りと夕方の返却を改めて確かめると、これで馬も荷車も、当日動かす段取りができた。
商業ギルドでは、ヒルデに仕入れた品と費用を伝え、市場へ着いてから商売を始めるための手順を確かめた。荷台の並べ方も話すと、彼女は手元の紙を見てから、
「見せるための布は、取り出せるところへ置いておくといいわね。全部を広げなくても、まず手に取ってもらえるように」
「ああ。箱を開ける順番も、考えておく」
帰宅してから、見せる分と売る分を分けた。売値を考え、釣り銭も揃える。帰りの買い付けに使う金は別の袋へ入れた。
夕食を済ませたあと、机の上で控えを一枚ずつ見直した。行き先、三人との契約、馬、商品、食料。足りないものを探すために何度も読んだ紙へ、今日は確かめ終えた印が増えている。
最後に納屋の鍵を確かめ、窓から庭へ目を向けた。暗くなった荷馬車には、まだ商品を載せていない。明日の朝、荷を積み、馬をつなぎ、三人を迎える。
支度を思い浮かべると、また何か忘れている気がして、鞄を開きかけた。
だが、同じ紙はさっきも読んだ。俺は鞄を閉じて机の脇へ置き、灯りを消した。
早く寝て、朝、起きよう。明日は、ようやくこの荷馬車で門を出る。




