↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

② 逆方向の港

翌朝、二人は港の古い広場に立っていた。


海鳥の鳴き声が響き、倉庫の間を潮風が抜けていく。沖から戻った船が帆を畳み、荷運び人達が木箱を担いでいた。


少女達が姿を消した夜、この広場には若者が集まっていた。


酒を飲む者。


魔導車を見せ合う者。


傭兵崩れや、町で騒ぎを起こす者も混じっていたという。


ノラは地図を広げた。


古塔は港から東。


最後の伝言にあった町も、東。


少女達の魔導車が見つかった水路は、西側の岸壁にある。


「逆だね」


「帰ってきたのだろう」


「古塔へ行ったあと?」


「その可能性が高いとされている」


「塔へ着いた記録は?」


「ない」


「中へ入ったところを見た人は?」


「いない」


「塔から戻るところは?」


「それもない」


ノラは地図の東側を指で叩いた。


「あるのは『もう塔のある町にいる』という伝言だけ」


「本人が送った」


「誰に届いたの?」


「友人の受信具だ」


「その友人って、誰?」


相棒は記録を確かめた。


「名は残っていない」


「どうして、二人からだと分かったの?」


「二人からの伝言として記録されている」


「誰が確かめたの?」


「……それも書かれていない」


ノラは相棒の袖をつまんだ。


少し首を傾け、上目遣いに見上げる。


「受信具って、受け取るだけだよね?」


「ああ。送るには、街角の通信盤から相手の番号を呼び出し、符丁を打ち込む」


「じゃあ、番号を知っていれば誰でも送れる?」


「仕組みの上ではな」


袖を軽く引く。


「ねえ。誰が送ったか分からない伝言で、どうして二人が古塔の町にいたことになるの?」


相棒は黙った。


「ねえ?」


「その顔をやめろ」


「どの顔?」


「何も分かっていない子供の顔だ」


「分かってないから聞いてるんだよ?」


「それが一番困る!」


ノラは袖を離した。


「通信盤の記録は?」


「残っていたか、警備局が調べたか。閲覧できる記録からは分からない」


「じゃあ、送った人も、送った場所も分からない」


「二人が送ったのかもしれない」


「うん。別の人が送ったのかもしれない」


「古塔へ向かったが、怖くなって引き返した」


「それも自然だね」


「港へ戻り、男達に声をかけられて驚いた」


「そうかもしれない」


「では、何がおかしい」


「伝言が、何も伝えていない」


相棒は地図から顔を上げた。


「『もう塔のある町にいる』。それだけ。古塔へ着いたとも、中へ入ったとも、帰るとも書いてない」


「短い伝言なら、その程度だろう」


「居場所だけを知らせるならね」


「それ以外に何がある」


「そこにいると思わせたいとき」


相棒は深く息を吐いた。


「今日は、その言い方を何回するつもりだ」


「そうかもしれない」


「数えておく」


少女達は、最初から二人だけで行くつもりではなかった。


仲間を誘い、断られた。


その後、港の広場へ立ち寄っている。


「最初から二人で行く予定だったの?」


「いや。ほかにも声をかけたが、断られている」


「じゃあ、この広場へ寄ったのは」


「単に知人を見かけただけだろう」


「古塔へ一緒に来てくれる人を探したのかも」


「根拠は?」


「二人だけで行くの、怖いから」


「肝試しとは、そういうものではないのか」


「怖いのは楽しいけど、本当に怖いのは嫌だよ?」


「その違いが分からん」


「だから誘うんだよ。怖くなったら、後ろの人を前へ押し出せる」


「最低だな」


「じゃあ、相棒を連れていく」


「俺を押し出すな」


ノラは広場を見回した。


少女達は、ここから一度、東へ向かった。


少なくとも、そう見える場所で魔導車を目撃されている。


だが、古塔へ着いた証拠はない。


最後には、再び港へ戻っていた。


「ここで一緒に行く人が見つかったなら、二人だけの肝試しではなくなるね」


「見つかった証拠はない」


「うん。でも、帰ってきたときには複数の男がいた」


「偶然、見かけただけかもしれん」


「そうかもしれない。その前に何があったのかは、誰も話していない」


「そのあと、何かが変わった」


「何がだ」


「分からない」


ノラは港の西側へ目を向けた。


「最後にいた男の人達が、ここで合流した相手かどうかも分からない」


「見かけて近づいただけだ」


「男の人達は、そう話してるね」


「ほかに記録はない」


「二人の話は、残せなかったから」


相棒は眉を寄せた。


ノラは地図を閉じた。


「でも、ひとつだけ確かなことがある」


「何だ」


「捜索された場所が違った」


古塔と山中は、長く捜された。


少女達が最後にいると伝えた場所だから。


その間、魔導車は港の底に沈んでいた。


最初に立ち寄った広場の、すぐ近くに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。