② 逆方向の港
翌朝、二人は港の古い広場に立っていた。
海鳥の鳴き声が響き、倉庫の間を潮風が抜けていく。沖から戻った船が帆を畳み、荷運び人達が木箱を担いでいた。
少女達が姿を消した夜、この広場には若者が集まっていた。
酒を飲む者。
魔導車を見せ合う者。
傭兵崩れや、町で騒ぎを起こす者も混じっていたという。
ノラは地図を広げた。
古塔は港から東。
最後の伝言にあった町も、東。
少女達の魔導車が見つかった水路は、西側の岸壁にある。
「逆だね」
「帰ってきたのだろう」
「古塔へ行ったあと?」
「その可能性が高いとされている」
「塔へ着いた記録は?」
「ない」
「中へ入ったところを見た人は?」
「いない」
「塔から戻るところは?」
「それもない」
ノラは地図の東側を指で叩いた。
「あるのは『もう塔のある町にいる』という伝言だけ」
「本人が送った」
「誰に届いたの?」
「友人の受信具だ」
「その友人って、誰?」
相棒は記録を確かめた。
「名は残っていない」
「どうして、二人からだと分かったの?」
「二人からの伝言として記録されている」
「誰が確かめたの?」
「……それも書かれていない」
ノラは相棒の袖をつまんだ。
少し首を傾け、上目遣いに見上げる。
「受信具って、受け取るだけだよね?」
「ああ。送るには、街角の通信盤から相手の番号を呼び出し、符丁を打ち込む」
「じゃあ、番号を知っていれば誰でも送れる?」
「仕組みの上ではな」
袖を軽く引く。
「ねえ。誰が送ったか分からない伝言で、どうして二人が古塔の町にいたことになるの?」
相棒は黙った。
「ねえ?」
「その顔をやめろ」
「どの顔?」
「何も分かっていない子供の顔だ」
「分かってないから聞いてるんだよ?」
「それが一番困る!」
ノラは袖を離した。
「通信盤の記録は?」
「残っていたか、警備局が調べたか。閲覧できる記録からは分からない」
「じゃあ、送った人も、送った場所も分からない」
「二人が送ったのかもしれない」
「うん。別の人が送ったのかもしれない」
「古塔へ向かったが、怖くなって引き返した」
「それも自然だね」
「港へ戻り、男達に声をかけられて驚いた」
「そうかもしれない」
「では、何がおかしい」
「伝言が、何も伝えていない」
相棒は地図から顔を上げた。
「『もう塔のある町にいる』。それだけ。古塔へ着いたとも、中へ入ったとも、帰るとも書いてない」
「短い伝言なら、その程度だろう」
「居場所だけを知らせるならね」
「それ以外に何がある」
「そこにいると思わせたいとき」
相棒は深く息を吐いた。
「今日は、その言い方を何回するつもりだ」
「そうかもしれない」
「数えておく」
少女達は、最初から二人だけで行くつもりではなかった。
仲間を誘い、断られた。
その後、港の広場へ立ち寄っている。
「最初から二人で行く予定だったの?」
「いや。ほかにも声をかけたが、断られている」
「じゃあ、この広場へ寄ったのは」
「単に知人を見かけただけだろう」
「古塔へ一緒に来てくれる人を探したのかも」
「根拠は?」
「二人だけで行くの、怖いから」
「肝試しとは、そういうものではないのか」
「怖いのは楽しいけど、本当に怖いのは嫌だよ?」
「その違いが分からん」
「だから誘うんだよ。怖くなったら、後ろの人を前へ押し出せる」
「最低だな」
「じゃあ、相棒を連れていく」
「俺を押し出すな」
ノラは広場を見回した。
少女達は、ここから一度、東へ向かった。
少なくとも、そう見える場所で魔導車を目撃されている。
だが、古塔へ着いた証拠はない。
最後には、再び港へ戻っていた。
「ここで一緒に行く人が見つかったなら、二人だけの肝試しではなくなるね」
「見つかった証拠はない」
「うん。でも、帰ってきたときには複数の男がいた」
「偶然、見かけただけかもしれん」
「そうかもしれない。その前に何があったのかは、誰も話していない」
「そのあと、何かが変わった」
「何がだ」
「分からない」
ノラは港の西側へ目を向けた。
「最後にいた男の人達が、ここで合流した相手かどうかも分からない」
「見かけて近づいただけだ」
「男の人達は、そう話してるね」
「ほかに記録はない」
「二人の話は、残せなかったから」
相棒は眉を寄せた。
ノラは地図を閉じた。
「でも、ひとつだけ確かなことがある」
「何だ」
「捜索された場所が違った」
古塔と山中は、長く捜された。
少女達が最後にいると伝えた場所だから。
その間、魔導車は港の底に沈んでいた。
最初に立ち寄った広場の、すぐ近くに。




