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① 古塔へ行った二人

二人の少女は、夜の古塔へ向かった。


町外れの山中に立つ、廃棄された魔法使いの塔。


窓は割れ、蔦が石壁を覆い、夜になると最上階に人影が現れると噂されていた。


少女達は幼馴染だった。


ともに十九歳。


見習い魔術師として働きながら、いずれ二人で冒険者になるつもりだったという。


その夜は、もっと大勢で肝試しへ行く予定だった。


だが、誘った者達には断られ、最後に残ったのは二人だけ。


それでも二人は、小型の魔導車で出発した。


途中、港近くの広場へ立ち寄り、知人と話している姿を見られている。


その後、山へ続く街道で魔導車が目撃された。


友人が持つ受信専用の魔導具へ、


『もう塔のある町にいる』


と、短い伝言が届いた。


それが最後だった。


二人も、魔導車も消えた。


古塔と周辺の山は何度も捜索された。


崖。


林。


廃屋。


川。


手掛かりは、何一つ見つからなかった。


やがて年月が過ぎ、少女達は神隠しに遭ったのだと語られるようになった。


失踪から二十年近くが過ぎた頃。


警備局へ、古い夜の目撃情報が届いた。


少女達の乗った魔導車が、港の水路へ落ちるところを見た者がいる。


だが、すぐに水路が捜索されたわけではなかった。


情報を得てから五年後、警備局は目撃者とされる三人の男を特定した。


さらに一年が過ぎ、ようやく男達への聴取が行われた。


そこで三人は、古い夜の記憶を語った。


少女達が乗った魔導車は、古塔へ向かう山道で消えたのではない。


港へ戻っていた。


男達が近づくと、魔導車は後ろ向きに急発進し、そのまま岸壁から水路へ落ちた。


怖くなった男達は、その場を去った。


誰にも知らせなかった。


三人の証言を受け、港の水路が捜索された。


泥の底から、少女達の魔導車が見つかった。


車内には、二人の遺骨が残されていた。


家族は、男達の話を信じなかった。


ただ声をかけようとしただけ。


少女達が勝手に怯え、勝手に後退し、勝手に水へ落ちた。


それを見ていた三人は、怖くなって逃げた。


二十年以上、誰にも話さなかった。


家族には、その説明があまりにも都合よく聞こえた。


警備局は、現時点で事件性は見当たらないと発表した。


なぜそう判断したのか、詳しい理由は明かされなかった。


「見ていたのに?」


酒場で古い瓦版を読んでいたノラが、顔を上げた。


相棒は嫌な予感とともに麦酒を置く。


「何がだ」


「二人が水へ落ちるところ」


「そう証言したらしい」


「助けを呼ばなかったの?」


「夜中だ。自分達が責任を問われると思い、怖くなったのだろう」


「それで、二十年以上?」


「……長いな」


「警備局に話が届いてからも、六年?」


「目撃者を捜し、話を確かめるには時間が要る」


「水路を捜すのにも?」


相棒は瓦版へ目を落とした。


「記録には書かれていない」


ノラは指を折った。


一本。


二本。


三本。


四本。


それでも足りず、もう一方の手へ移る。


「何を数えている」


「黙っていた年」


「指では足りん」


「途中で気付いた」


「数える前に気付け」


ノラは瓦版を畳んだ。


「港へ行こう」


「断る」


「どうして?」


「行けば分かるとでも言うつもりか」


「ううん」


「では行く必要がない」


「分からないことを確かめに行くんだよ」


「それは、何も確かめられないという意味だ」

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