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プロローグ 静かな港町
港町へ続く坂道を、魔導車がゆっくりと下っていた。
眼下には、半月形の湾が広がっている。
海沿いには石造りの倉庫が並び、その向こうには大小の帆柱が見えた。湾の入口に立つ白い灯台は、青い空を背にして、町と海を見張るようにそびえている。
ノラは窓から身を乗り出した。
潮の匂いを含んだ風が髪を揺らす。
「静かだね」
「昼間の港はそんなものだ」
相棒は前を向いたまま答えた。
沖へ出た船が戻るのは夕方から夜にかけてだ。荷揚げ場も酒場も、その頃になれば騒がしくなる。
今は街道を行き交う荷車も少なく、倉庫の間を歩く人影もまばらだった。
「でも、静かすぎない?」
「何と比べている」
「港町」
「ここも港町だ」
「そうなんだけど」
ノラは坂の下に広がる町を眺めた。
窓を閉じた家。
人のいない路地。
風に軋む倉庫の扉。
海鳥の声だけが、妙に遠くまで響いている。
「町全体が、何かを黙ってるみたい」
相棒が横目でノラを見た。
「事件の匂いがするとでも言うつもりか」
「ううん。ただの感想だよ」
「お前の感想は、たいてい面倒事の入口だ」
「まだ何もしてないよ?」
「着く前から余計なものを見るな」
「見えたものは仕方ないでしょ?」
魔導車は坂を下りきり、静かな港町へと入っていった。
白い灯台だけが、湾の向こうから二人を見下ろしていた。




