④ 沈められたもの
しばらくして、相棒は疲れ切った声で尋ねた。
「なら、役人はなぜ心中と決めた」
「他殺だと証明する物が見つからなかったからじゃない?」
「それだけで?」
「心中として処理すれば、犯人を探さなくていい。不自然な点へ答えを出さなくても、捜査を終わらせられる」
ノラは懐から触書を取り出した。
そこには、一家心中と明記されている。長く行方不明だった一家は、自ら死を選んだ家族として記録に残る。
「でも、他殺の証拠がないことは、心中の証拠があることにはならないよ」
「お前の他殺説も、こじつけかもしれない」
「うん。役人さんの心中説もね」
「どちらも証明できないなら、何と記録すればよかったんだ」
「分からない、でいいんじゃない?」
相棒が目を瞬いた。
「分からないまま?」
「分からないものを、分かったことにするよりはね」
ノラは湖面へ視線を戻した。
「この事件は、心中にも他殺にも入っていなかった。本当は、ニュートラルのままにしておかなきゃいけなかったんだよ」
役人は、それを心中へ入れた。
物的証拠がないまま、事件を終わらせるために。
湖底に沈んでいた魔導車の切替器は、ニュートラルだった。
けれど事件だけが、そこに留まることを許されなかった。
相棒は長い間、何も言わなかった。
やがて、ノラの横顔を見る。
「本当のことを知っている者は、いると思うか」
「いるかもしれないね」
「婚約者か?」
「さあ?」
「同僚か?」
「知らない」
「では、誰だ」
「それが分かったら、最初から苦労してないよ」
ノラは踵を返し、胸を張って歩き始めた。
相棒が動かない。
十歩ほど進んだところで、ノラは振り返った。
「相棒?」
「町は逆だ」
ノラは止まった。
「……知ってたよ」
「嘘をつけ」
「相棒が気付くか試したの」
「お前が一人で来なかった理由が、ようやく分かった」
二人の声が、静かな湖畔から遠ざかっていく。
水面に広がった波紋は、やがて何事もなかったように消えた。




