第二話 似ている事件
「これ、二か月前」
ノラは昨日見つけた資料を机の中央へ置いた。
「今度は日付を間違えてないな」
「ちゃんと見た」
「昨日も見ろ」
資料には、本事件より二か月ほど前に起きた別の事件が記録されていた。
公的な機関の職員を名乗る男が役所を訪れ、庁舎内で問題が起きたため、予防の薬を飲む必要があると説明している。
男は二種類の薬液を用意し、自分が先に飲んでみせた。
その後、職員たちにも順番に飲ませた。
体調を崩した者はいたが、死者はいない。
「似てる」
「似てるな」
「昨日の事件と同じ人?」
「そう考えられていたらしい」
「なんで?」
「手口が似てるからじゃないか」
「どこが?」
「今、お前が似てるって言っただろ」
「言ったけど、同じ人とは言ってないよ」
「面倒くさいな」
ノラは二つの事件を並べた。
「役所に来る」
「同じだな」
「職員を名乗る」
「同じ」
「薬を飲ませる」
「同じ」
「自分が先に飲む」
「それも同じだ」
「死んだ人はいない」
「そこは違う」
「盗まれたものもない」
「そうだな」
ノラは最初の資料へ戻った。
「この薬、何?」
「書いてないか?」
「調べてる」
頁をめくる。
もう一枚。
その次。
「分かんない」
「事件で使われた毒と同じじゃないのか」
「そうなの?」
「俺に聞くな」
「じゃあ探して」
「お前が探せ」
二人で資料を分けた。
しばらくして、ノラが別の紙を引っ張り出した。
「あった」
「毒か?」
「違う。もう一個」
「何が」
「似た事件」
本事件の少し前にも、別の場所へ公的な機関の職員を名乗る男が現れていた。
ノラは読み進めた。
途中で止まる。
「……ん?」
「どうした」
「これ、似てない」
「さっき似た事件って言っただろ」
「書いてあるから」
「何が違う」
「薬、飲ませてない」
相棒が資料を取った。
男は職員に薬液を示している。
だが、その薬液を人に飲ませようとはしていなかった。
男が薬液を使うよう指示したのは、役所で扱われる為替だった。
「為替?」
「そう書いてあるな」
「なんで?」
「知らん」
「薬を?」
「ああ」
「為替に?」
「何回聞くんだ」
ノラは資料を取り返した。
「何の薬?」
「それを今読んでる」
「毒?」
「分からん」
「最初の事件と同じ?」
「分からん」
「本事件の毒と同じ?」
「それも分からん」
「調べなかったの?」
「待て」
相棒が別の資料を開いた。
頁をめくる。
ノラも探す。
薬液が使われたことは書かれている。
男が為替へ処置するよう指示したことも書かれている。
だが、その薬液が何だったのか。
成分を鑑定した結果は見つからない。
「ない?」
「少なくとも、ここにはない」
「じゃあ、毒だったかも分かんない?」
「この資料だけならな」
「飲む薬だったかも?」
「分からん」
「飲まない薬だったかも?」
「分からん」
「匂いとか、蒸気で効くものだったかも?」
「可能性を増やすな」
「だって調べてないなら分かんないじゃん」
「だから、分からんと言ってる」
ノラは三つの事件を並べた。
一件目。
薬液を人に飲ませた。死者はいない。
二件目。
薬液を為替へ使わせた。人には飲ませていない。
三件目。
薬液を人に飲ませ、多数が死亡した。
「これ、三つとも同じ人なの?」
「捜査側はそう考えたらしい」
「なんで?」
「またそこに戻るのか」
「だって二個目、違うよ」
「職員を名乗って役所に入ったところは似てる」
「薬も持ってる」
「そうだな」
「でも使い方が違う」
「ああ」
「薬が同じだったかも分かんない」
「今見ている資料ではな」
「じゃあ、なんで同じ人?」
「だから、それを調べるんだろ」
「最初からそう言ってるよ」
「今決まっただろ」
ノラは次の資料を開いた。
三つの事件は関連事件として捜査されていた。
男の話し方。
名乗った所属。
役所へ入るために使った説明。
薬品を持参していたこと。
人前で薬品を扱っていたこと。
捜査側は、それぞれの共通点を調べていた。
「この人、薬に詳しいと思われてる」
「そうみたいだな」
「なんで?」
「本事件で自分も飲んでるからじゃないか」
「死なない量が分かってた?」
「そう考えたんだろう」
「間違えたら?」
「死ぬかもしれないな」
「怖い」
「今さらか」
さらに資料をめくる。
捜査側は、薬品について専門的な知識を持つ者を調べ始めていた。
薬を扱う者。
医療に携わる者。
研究者。
特殊な薬品を入手できる立場にあった者。
調査対象は広がっていく。
「いっぱいだね」
「専門知識だけじゃ絞れないんだろ」
「この人は?」
「薬を扱う仕事だな」
「こっちは?」
「研究者」
「この人は?」
「医者」
ノラは次の頁をめくった。
知らない名称が出てきた。
「旧体制の特殊研究部門」
相棒が覗き込む。
「ああ」
「何これ?」
「昔あった研究組織だな」
「何を研究してたの?」
「薬品関係も扱っていたらしい」
「毒も?」
「……ああ」
ノラはその先を読んだ。
人名が並んでいる。
「この人は?」
「その研究部門にいた人間だ」
「この人も?」
「そうだ」
「こっちは?」
「同じ」
次の名前を指す。
「この人も?」
「……そうだな」
もう一枚めくる。
まだ続いている。
「この人は?」
「それも」
「こっちは?」
「そこに所属名が書いてあるだろ」
「あ、本当だ」
さらにめくる。
「いっぱいじゃん」




