③ 返事
日が傾き始めても、ミーちゃんは見つからなかった。
不思議なことに、名前を呼べば必ず鳴き声が返ってくる。ところが声を頼りに進んでも、その先には誰もいない。
「ミーちゃーん!」
「みゃあ」
今度は近い。
「この辺りだ!」
樽を動かし、荷車の下を覗き、水路脇の茂みをかき分ける。
やはりいない。
「おかしいな」
警邏の男が首をひねった。
「ずっと近くにいるはずなんだが」
「捜索隊の動きを見ながら逃げているのかもしれない」
私が言うと、相棒が冷たい目を向けた。
「なぜ猫が、そこまでして我々を翻弄する」
「追われる者には、追われる者なりの事情があるのよ」
「赤いリボンをつけた飼い猫だぞ」
再び全員で呼ぶ。
「ミーちゃーん!」
「みゃあ」
今度こそ、全員が動きを止めた。
声は前からでも、樽の陰からでもなかった。
足元から聞こえた。
捜索隊の後ろを歩いていた灰色の猫が、青い目で私たちを見上げている。
「……まさかな」
相棒が呟いた。
私は猫の前へしゃがんだ。
「あなた、名前は?」
「みゃあ」
「ミーちゃん?」
「みゃあ」
そこへ、女の子が通りの向こうから駆けてきた。
「ミーちゃん!」
灰色の猫が飛び出した。
女の子は地面へ膝をつき、薄汚れた猫を抱き締める。
「ああ、よかった! ずっと探してたんだから!」
捜索隊は誰も動かなかった。
パン屋の主人が、手に持っていた干し魚と猫を見比べている。
相棒が女の子へ尋ねた。
「ミーちゃんは、白くてふわふわした猫ではなかったのか?」
「そうだよ?」
女の子は灰色の塊を抱いたまま答えた。
「洗おうとしたら逃げちゃったの。灰の袋に飛び込んだから、今は汚れてるけど」
赤いリボンは洗う前に外したらしい。
白くない。
ふわふわでもない。
赤いリボンもない。
合っていたのは、青い目だけだった。
「最初に言ってくれ」
相棒が額を押さえた。
「だって、ミーちゃんは白い猫だもん」
女の子の返事に、相棒は黙った。




