② 家を出たのは誰か
翌朝、二人は一家が暮らしていた家の前に立っていた。
事件後に引き払われた家は、窓板が閉じられ、庭には枯れた草が伸びている。
「玄関には鍵が掛かっていた」
相棒が扉を見ながら言った。
「争った形跡もない。第三者が押し入ったとは考えにくい」
「鍵を持っていたら、施錠されていても関係ないよね」
「家族に招かれた者なら、押し入る必要もないな」
「台所の勝手口には、鍵が掛かっていなかった」
「……ああ」
ノラは家の脇へ回った。
「入り方も出方も、いくらでも考えられる。だから、この鍵は他殺の証拠にはならない」
「なら、心中説と矛盾しないだろう」
「玄関に鍵を掛けて、家族全員が勝手口から出たことになるけどね」
相棒が家の裏手を見る。
「旅行へ出るつもりだった一家が、玄関だけ鍵を掛けて、勝手口は開けたまま出発した?」
「心中するなら、戸締まりなど気にしなかったのかもしれない」
「それなら、どうして玄関は掛けたの?」
「先に掛けてあっただけだろう」
「その可能性もあるね」
ノラはあっさり頷いた。
「結局、鍵が掛かっていたことから分かるのは、玄関に鍵が掛かっていたことだけだよ」
相棒は何か言いかけ、やめた。
ノラは玄関先へ戻り、別の記録を開く。
「一家のサンダルは、玄関から消えていた。その後、魔導車の中から見つかった」
「全員が自ら履いて、車に乗った証拠だ」
「車の中にあった証拠だよ」
「同じだろう」
「違うよ。誰かが履いて歩いたのか、車へ積まれたのか、サンダルだけ後から放り込まれたのか。残っているのは、発見された場所だけ」
ノラは閉ざされた扉を見た。
「ご主人だけは私服で、ほかの三人は寝間着だった」
「夜中に出発したんだ。着替えなかったのだろう」
「家族全員が、覚悟して?」
「そう考えられている」
「使い魔も連れて、寝間着のままサンダルを履いて?」
「……そういう心中だったのかもしれない」
「うん。そういう話は作れる」
ノラは羊皮紙を畳んだ。
「他殺の話も作れるけどね」
「お前は最初から、それを作りたいだけではないのか」
「そうだよ?」
あまりに素直な返事に、相棒が言葉を失った。
「役人さんが心中の筋書きを作れるなら、ボクは他殺の筋書きを作る。どちらも同じ事実を使ってね」
ノラは家を離れ、道の途中で足を止めた。
「それで、どちらに物的証拠があるのか比べる」
「あるのか?」
「今のところ、どっちにもない」
「では、俺たちは何をしに来たんだ」
「次は湖だよ」
「質問に答えろ」




