➂ 残されたもの
河川警備隊の記録庫には、革と湿気と古い墨の匂いが染みついていた。
事件簿を机へ置いた警備隊長は、二人を向かいに座らせた。
「十七年前の捜査に、今さら何の用だ」
「懸賞金を出してるのは、そちらですよね?」
ノラが言う。
「だからといって、素人へ記録を見せる理由にはならん」
「青い魚の袋、町中にあったんですよね」
隊長の眉が動いた。
相棒が正式な調査許可証を机へ置く。
隊長は許可証とノラを見比べ、深いため息をついた。
相棒は事件簿を開いた。
裏口の蝶番は、強い力で破壊されていた。
ガイエンは居間の長椅子に座った状態で、胸へ短い矢を受けていた。姉のマーサは警鈴のそばで倒れ、頭を殴られた後、切断された警鈴の綱を首へ巻かれていた。
金庫には銀貨が残されていた。
消えたのは青い小袋だけ。
中身は組合印と、三つの倉庫を開ける鍵。
しかし事件後、印も鍵も使われていない。
現場に残された革手袋には二人の血が付着していた。木底履きの跡は裏口から水路側へ続き、途中で消えている。
「犯人は裏口を壊して侵入し、二人を殺害。組合印と鍵を奪って水路へ逃げた」
隊長が当時の見立てを説明した。
「船は?」
「祭り前で出入りが多かった。特定できなかった」
「組合印を盗んだ理由は?」
「倉庫の荷を奪うつもりだったが、手配が早く、諦めたと見ている」
「銀貨は?」
「見落としたのだろう」
ノラは現場見取り図を眺めていた。
「この蝶番、破片はどっちに落ちてたの?」
「何?」
「壊れた裏口の破片」
隊長が別の記録を取り出した。
木片の大半は建物の外。
金具も一つ、外の泥から回収されている。
相棒の目が細くなった。
「外から打ち破ったなら、破片は内側へ飛ぶ」
「壊れ方による」
「でも、外に多いんだ」
ノラが見取り図を指でなぞる。
「裏口は、二人を殺した後に中から壊したんじゃない?」
隊長はすぐには答えなかった。
「では、犯人はどうやって入った」
「普通に」
「普通に?」
「表から」
居間の長椅子に座っていたガイエン。
早朝から起きていた組合主。
向かいに立った誰かを警戒せず、話を聞いていた。
短い矢は、近距離から放たれている。
「ガイエンは、お客さんを迎えてたんだよ」
ノラの声が記録庫に落ちた。
「だから座ってた。犯人が裏口を壊す音を聞いても立たなかったんじゃない。裏口が壊された時には、もう死んでた」




