④ 不審者
翌朝、二人は再びエダの家を訪ねた。
今度は相棒が先に水門橋を渡った。
「今日は迷わなかった」
ノラが誇らしげに言うと、相棒は立ち止まった。
「お前が先に歩いていないからな」
「私だって、もう道は覚えたよ」
「では、あの角から一人で行ってみろ」
ノラは迷わず右を指した。
「エダさんの家は、こっち」
「左だ」
「分かってた。試しただけ」
「誰を」
「相棒を」
「俺は合っている」
相棒はノラの肩を掴み、左へ向けた。
エダは縁台に腰掛け、豆の筋を取っていた。
ノラは「怪しい人物」について聞かなかった。
代わりに、事件当日の朝、普段と同じように通った人を尋ねた。
水運祭の支度へ向かった酒屋。
荷揚げ場へ急いだ網職人。
パンを配った少年。
倉庫組合の小型魔道車。
「組合の魔道車?」
相棒が反応した。
「珍しくもないよ。毎朝通っていた」
「誰が乗っていた」
「そこまでは見ていない。音で分かるのさ」
エダは豆を籠へ落とした。
「右の車輪だけ、石を踏むたびに軸が鳴る。駆動石の唸りにも癖があった。直せばいいのに、ずっと放ってあった」
事件簿には、事件当日の早朝、組合の魔道車を見たという証言はない。
聞き取りを担当した警備兵は「見知らぬ魔道車」「不審な船」「怪しい旅人」を探していた。
いつもの魔道車は、最初から証言の外に置かれていた。
倉庫組合の記録を調べると、その魔道車は組合の共用だった。
帳簿係。
倉庫番。
荷役人。
組合主の使いで町を回る少年。
鍵の置き場所を知る者なら、誰でも使えた。
事件当日の使用記録はない。
祭りの準備で帳面が混乱していたため、警備隊もそれ以上は追っていなかった。
「この人たちは調べたの?」
ノラが組合員名簿を指した。
「全員、事情聴取を受けている」
隊長が答えた。
「親族も、辞めた荷役人も、取引相手もだ。名前も家も確認した。怪しい物は出なかった」
「革手袋は?」
「町中の荷役人が持っている」
「木底履きは?」
「同じだ」
「青い袋は?」
「祭りで配られた物だ」
隊長はそこで言葉を止めた。
犯人へ繋がるはずの品が、どれも特定の一人へは繋がらない。
同時に、町の誰へも繋がらない。
「だから置いたんじゃない?」
ノラが言った。
「何?」
「誰のものか分からない物ばかり」
革手袋。
木底履き。
青い魚の小袋。
壊された裏口。
犯人の失敗に見える痕跡は、すべて「祭りに紛れた強盗」を指している。
しかし、その強盗本人を示す物は一つもなかった。




