① 青い魚の小袋
水運祭を三日後に控えた町では、朝から青い旗が翻っていた。
運河沿いの欄干にも、荷揚げ場の柱にも、青い布が結ばれている。魚をかたどった銀色の飾りが風を受けるたび、眩しい光を散らした。
広場の掲示板にも青い紙が貼られていた。
ただし、祭りの案内ではない。
十七年前に発生した、倉庫組合主姉弟殺害事件。
犯人逮捕に繋がる情報へ、金貨五百枚。
手配書の中央には、青地に白い魚模様の小袋が描かれている。
「また上がった」
ノラが紙を見上げた。
「何がだ」
隣にいた相棒は、祭りの屋台へ目を向けている。朝から焼いた川魚の匂いが漂っており、話の半分も聞いていなかった。
「懸賞金。去年は四百枚だった」
「それだけ重要な事件なんだろう」
「十七年も捕まってないから?」
「そう書いてある」
「犯人が見つからないから?」
「同じことを二度聞くな」
ノラは首を傾げたまま、手配書へ顔を近づけた。
事件が起きたのは、水運祭初日の早朝だった。
町の北側に新築された倉庫兼住宅で、倉庫組合主ガイエンと、共同経営者である姉のマーサが殺害された。
裏口の蝶番は壊されていた。床には血の付いた荷役用の革手袋と、木底履きの跡が残され、組合印と倉庫鍵を入れていた小袋が消えていた。
警備隊は、祭りに紛れて町へ入った水路強盗の犯行と見た。
しかし、小袋は見つからず、組合印も使われなかった。犯人に繋がる情報もないまま、毎年同じ手配書が貼られている。
「これ、町の人がみんな持ってたやつじゃない?」
ノラが言うと、相棒はようやく手配書を見た。
「被害品だぞ」
「袋じゃなくて、柄。同じものを持ってるおばちゃん、昔は朝市に何人もいたよ」
近くで魚籠を売っていた老婆が顔を上げた。
「祭りの景品だったからねえ」
「景品?」
相棒が聞き返す。
「倉庫組合が配ったのさ。二十年くらい前だったかね。紐が丈夫で、銅貨を入れるのにちょうどよかった」
老婆は懐かしそうに笑い、それから手配書へ目を向けた。
「事件の後は、誰も使わなくなったけどね」
「どうしてだ」
「同じ袋を持っていたら、疑われるじゃないか」
相棒が黙った。
ノラは手配書をもう一度見る。
特徴的な青と白。
町の誰もが見覚えのある袋。
それなのに、誰の物かは分からない。
「見つからないんじゃなくて」
「何だ」
「いっぱいあったから、見つけられなかったんじゃない?」
老婆は何も答えなかった。
ただ、店先に積んでいた籠を一つ、静かに裏返した。
底には、色褪せた青い布が敷かれていた。
白い魚の尾が、籠の隙間から覗いていた。




