プロローグ 片付けられた奇聞
旅の途中で手に入る情報は、大抵が誰かの都合で色づけされている。
街道沿いの茶屋で相棒が広げた古い手配書や瓦版の束を、ノラは器用に串団子の串でめくっていた。
「行儀が悪い」
「手が汚れるから」
「なら読むな」
「読まないと、どこへ向かえばいいか分からないよ」
ノラが指先で止めた紙片には、数年前に隣領の山村で起きた『珍事』が小さく記されていた。
真冬の夜、他人の家の便槽に潜り込み、そのまま抜け出せなくなって凍死した青年の記録。
覗き目的の自業自得、と一行で片づけられた奇妙な事故。
「……これ、変じゃない?」
「どこがだ。世の中には悪趣味な人間も、間抜けな死に方をする奴もいくらでもいる」
「でも、真冬だよ。凍えるような夜に、わざわざ狭い穴へ入るかな」
「だから間抜けなんだろう」
「間抜けな人は、もっと楽な方法で悪いことをすると思う」
相棒は茶を飲み干し、呆れたように息を吐いた。
「また始まった。首を突っ込むなと言っても聞かないんだろう」
「首は突っ込まないよ。見るだけ」
「お前の『見るだけ』で、どれだけの役人が頭を抱えたか覚えているか?」
「覚えてない」
ノラは平然と言い放ち、最後の一本の団子を口に運んだ。
その村には、山を巡るきな臭い噂と、誰も触れたがらない奇妙な死が沈んでいる。
真実を暴くためではなく、ただ帳尻の合わない違和感を確かめるために。
ポンコツと評される探偵と苦労人の相棒は、冷たい風が吹き下ろす山あいの村へと足を踏み入れようとしていた。




