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RU-ONE  作者: 六条門司
部隊結成

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2/10

リハビリと孤児院

天井で回る錆びついたファンが、湿った熱気をかき混ぜるだけの停滞した空間で、成瀬の「返済」は始まった。


「……っ、ぐ、あぁ……!」


リハビリ用の平行棒を掴む成瀬の指先が、白く強張る。

しびれの取れない左腕と砕けた右膝に体重を乗せるたび、神経を直接ナイフで削られるような激痛が脳髄を焼く。

冷や汗が床に滴り、視界がチカチカと明滅する。


「あと三往復だ、ナルセ。歩きながら、次は問題だ。シンガポール港のコンテナターミナルに侵入して、最短で対象まで向かう経路を答えろ」


部屋の隅でパイプ椅子に座るスペンサーが、机に向かった視線も上げずに冷たく告げる。彼は成瀬の専属リハビリ担当であり、同時に「教育係」でもあった。

スペンサーが画面に港の図面を投影する。

成瀬は激痛に耐えながら、歪む視界で複雑な図を睨みつけた。


「……第三、ゲートの、監視がゆるい。ゲート脇から侵入、対象まではCルートで、単独で7分」


「正解だ。だが、答えを出すのが遅い。」


スペンサーは容赦なく次の図面を表示させる。


「……っ、ぐ……!」


視界が白く爆ぜ、膝の力が抜ける。

無様に床へ崩れ落ちようとしたその瞬間、温かい手が成瀬を支える。


「はい、そこまで。これ以上やったら、せっかく繋いだ神経がまた拗ねちゃうわよ」


成瀬が顔を上げると、そこには使い込まれた白衣に身を包んだ女が立っていた。

成瀬のオペを担当したこの病院の医者。

彼女は成瀬の硬直した筋肉を迷いのない手つきで解していく。


「リン、甘やかすな。こいつの返済計画は、オレの仕事だ。」


スペンサーが不機嫌そうに端末を叩く。


「あんたの計画について行いける人間は少ないでしょう。……ほらナルセ。これ飲んで。泥水よりはマシな味がするから」


差し出されたのは、ひどく甘ったるい香りのする、どろりとした漢方薬のような飲み物だった。

成瀬はそれを一気に煽り、ゲホゲホとむせ返る。


「……毒、かと思った」

「死なせないわよ。あんたには、私の治療費もたっぷり稼いでもらわなきゃいけないんだから」


甘やかされてる?この口のどこがだ。


「おまえら、人の身体をなんだとおもってるんだ……」

「お給料をくれる金の豚?」「リターンの少ない投資」


ふたり揃っていい性格をしている。

ピクピクと眉毛の上辺りが反応する。


「……次の往復、やるぞ。その代わり、次はもっとマシな図面を出せ」

「いいだろう。次は、東南アジアのDCの配置図だ。」


スペンサーが微かに口角を上げ、新たなデータを投影する。

こうして成瀬は、昼は肉体の苦痛と、夜は資料の迷宮と格闘する日々を送った。


半年のリハビリのお陰で、成瀬は一通りの回復を見た。

無理なく走れるようになり、並行して行われている射撃訓練や軍事教練にも徐々に参加している。

クアンが預けられている施設にも定期的に顔を出し、元気でいることを確認している。


「タツヤ!今日も遊べる?」

「今日は先生と話があるから、その後だな」

「わかった!」


クアンは同じ年頃の子どもと元気に走り回ってる。

良かった。

あんな所にいるべきではなかった。

きっとこれで良かったんだ。

そう自分に言い聞かせるのが精一杯だった。


「ミスターナルセ。今回もご寄付いただきありがとうございます」


丁寧に頭を下げてくれるこの人は、シスターを名乗っている。

クアンのいる施設は、街の孤児院だという。

死にかけたが、VSSに拾われて理不尽な借金を背負ってるが、少ないが給料をもらい定期的にクアンの様子を見に来ている。


「いえ。オレに出来ることは、このぐらいしか無いので」


オレはクアンと一緒に、前の組織から抜けた。

ただの偽善的な行為だ。あのままクアンを置いて逃げる事はできなかった。


「最初の頃が思い出されます。ひどく怯えて、なかなか話もできず、他の子の輪にも入れない状態は不憫でしたが、あなたが顔を見せるようになってからは、かなり改善が見られましたよ」


庭先で他の子に混じって遊ぶクアンが年相応に見えた。

このままクアンが、あそこでの出来事を忘れてくれる事を願うしか無い。


「ただ、最近不審な車が来ることがあるのです」

「不審な車ですか…」


ドキッとした。

ここは、非公式だがVSSの管理下にある地域で、よそ者は近づきづらい土地柄だと聞いている。


組織連中か?縄張りが違うからこちらまで来ることは無いと思っていたが、クアンが見つかったか?それともオレか?

リハビリの間に情報を制限されていたせいで、組織の情報は入りづらくなっている。

スペンサーからは、組織の座組が変わったとだけ教えられた。

こちらには目をつけてないと。

もう一度確認が必要か。


「VSSの皆様からは良くしていただいてますし、ここのセキュリティは実験的にかなり高度になっていると聞いています。子どもたちが怖がらなければよいのですが」


シスターがここまでいうのであれば確認が必要だろう。


「タツヤ!鬼役やって!前に話してたでしょう?影オニってやつやりたい!」

「おぅ!じゃぁ10数えるから逃げろよ」

「シスター。オレのほうからも聞いてみます」

「お願いします」


子どもたちを必死に追いかけるが、まだ追いつける程回復していないようだ。良いカモにされてるなこれ。


このビクター・ストラテジック・サービス(VSS)は、マレーシアを拠点に現在急上昇中の民間軍事会社だ。

俺が助けられたジョホールバルの拠点は、要人救出・回収部隊を担当する、リカバリーユニットという部署が配置されている。

スペンサーの教育方針を考えると、どうやら俺もそのユニットの一員になるようだ。


拠点は中規模だが、隊員の宿舎やヘリの発着所や病院や訓練施設セットされており、街中の治安維持もVSS頼りで、前に居た所に比べれば街として機能しており、ゴロツキも少ない。


ここに来て半年過ぎたが、病院と訓練所と修道院と宿舎を行ったり来たりするだけで、ほぼどこにも行っていない。

知り合いは、孤児院のシスター、クアンと子どもたち、主治医のリン、教育係のスペンサーだけ。ほかの隊員とも積極的な交流はしていない。


俺自身の情報は出来るだけ外に漏らしてはいけない。

組織が嗅ぎつけ、復讐や襲撃をされる恐れがある。


クアンを守らなければならない。

あの子が自分の道を選択できるようにまで。


まずは、俺の借金返済が先か。



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