第4章 : あの建物の中、何があるの?
「ねえ、ねえ…聞いた?」
「どんな話?」
「東江戸郊外の廃病院で人を殺す幽霊の噂があるんだけど…」
「えっ?…この辺りじゃないの…?夜にしか現れないらしい…夜に行かなければ殺されないって…」
「怖い…」
「その幽霊は、犠牲者をずっと『お母さん』と呼びながら殺すらしい…」
「うわぁ…気味が悪い…」
「男の人なら『お母さん』と呼びながら殺すらしいけど…女の人なら…お腹が異常に膨らんで…ドスン…」
「気持ち悪い…見たくない…」
「私も…遭遇しないことを祈るばかり…」
◆◇◆
「おいおい…遊ぼうぜ!」
「正気なの?…もうこんな時間よ!」
暗闇の中、坊主頭の少年が少女の寝室の窓を叩いていた。
少女はベッドに横たわり、彼を追い払おうとしたが、少年はしつこく話しかけてきた。
「あの…あの『廃病院』に行きたいんだけど、一緒に行ってくれない?」
「えっ!?…正気なの?絶対行かないわよ!」
少女はきっぱりと拒否したが、少年は両手を合わせて頭を下げ、懇願するように言った。
「お願い、一緒に行って!他の誰も来てくれないんだ。君しか行けないんだよ。」
本当は…一人で行けばいいのに、と言いたかったのだが、頷いて同意した。
「わかった…行くなら…私からあまり離れないでね。」
少女は身をよじりながら言った。それはただ一つのことを意味していた。
「私を信じて。」
青年が手を差し伸べると、若い女性はそれに応えて手を握った。
若い女性の心臓は激しく鼓動した。ただ触れ合っただけで、こんなにも胸が高鳴るのだ。
これが、好きな人と二人きりになった時の感覚だった。
夜になると警備員が巡回するため、二人は暗闇の中を歩いた。それでも、若い女性は怖くなかった。
彼の温かく、少し荒々しい手の感触が、彼女に安心感を与えてくれた。
江戸の東地区では、殺人事件が相次いで発生していた。中でも、人気アイドル、エミリタンの殺害事件は特に注目を集めていた。彼女は自宅で凄惨な死体となって発見された。
こうした犯罪はジェポンネ各地で起きていたが、東地区では特に多発していた。
新聞報道によると、東地区の住民は他地域へ移住しており、空き家が増え続けていた。建物は値下がりして売りに出され、中には10歳の子どもでも買えるほどの大きな建物もあった。
「着いた…」
「恐ろしい…」
この建物もそうだ。ここは開院してまだ10年も経っていない病院だ。「天国の門」の出現は、この異世界からの知識のおかげで、世界中の多くの国々の様々な発展を導く技術と知識をもたらした。
魔法の世界とはいえ、誰もが魔法を使えるわけではない。
以前にも言ったように…この世界では、一般人は生まれながらにして魔法の力を持たない。
生まれながらにして魔法を使えるのは上流階級だけで、一般人でもごく少数だ。
魔法は誰もが憧れる特別なものだと誰もが考えている。
しかし、この異世界からの技術の到来によって…人々は自らの「魔法」を手に入れ始めた。
最近、魔法に希望を持てなかった者たちが、突如として希望の光を見出した。
「こちらだ!」
「あまり遠くへ行かないで!」
以前は、危険が迫ると、彼らにできることは逃げることだけだった。しかし、銃器や電子機器といった技術の発達により、彼らは突如として魔法使いと肩を並べる存在へと近づいた。
「……あらゆるものが至る所に散らばっている。」
平凡な村人たちから多くのことを学び始め、その多くが真の知識人となった。
世界各地で数々の文化や芸術が誕生した。
「ねえ…戻ろうよ…お願い。」
「どうしたの?着いたばかりじゃない。」
「真っ暗で…怖い。」
二人は恐る恐る廃病院に入った。いや、怖がっていたのは少女だけだったのかもしれない。
「ここで魔法の実験を受けて悪魔にされた人がいるって聞いたよ」少年は少女をからかうように言った。少女は彼の腕にしっかりと抱きついていたが、さらに強くしがみついた。
「怖がらせないでよ、いい?」
カチッ…カチッ…カチッ…木靴の音が建物の木製の床に響く。少女は耳を澄ませ、四つ以上の足音が聞こえないことを祈った。
「……患者の部屋?」
二人は引き戸を開け、個室らしき部屋に入った。中には、いつものように持ち物が散乱していた。
「……」
二人が歩いた部屋には、ただ静寂と、絶えず吐き気を催すような空気が漂っていた。
少女は少年に近づき、ノートを見つけた。
それはごく普通のスケッチブックだった。
ノートの状態は怪しかった。埃まみれだったが、不思議なことに紙自体は驚くほどきれいで、傷みは見られなかった。
彼女はノートを開いた。そこには絵と子供の筆跡があった。
最初の絵には、おそらく母親と思われる女性の手を握る少年が描かれていた。
「これは僕と母の記録です。母はいつも寝たきりでしたが、僕はいつも母のそばにいました。」
「これは……何?」
彼女はページをめくると、少年と母親の似たような絵が現れた。
いくつかの会話は、二人が食べた食べ物についてだった。
他の会話は、母親に寝る前に絵本を読んであげたことについてだった。
他の会話は、母親のために花を替えたことについてだった。
そして……最後の絵で、それは途切れていた。
異物が混ざっていたのは、そのページだけだった…。
「……あら。」
それが何なのかは分からなかったが、ページは血で覆われていた…。
絵からはひどい悪臭が漂っていた。埃まみれだったにもかかわらず、その臭いは消えなかった。
しかし…
「生理の血の匂いがする…」
彼女は振り返って青年を探したが…
彼は跡形もなく消えていた。
「ケイ…だめ…からかわないで、ケイ?」
少女は何度も青年に呼びかけたが…返事はなく、テーブルの上の油ランプだけが灯っていた。
「お願い…そんなふざけた真似はやめて。」
彼女は油ランプを患者の部屋から持ち出し、暗い廊下をゆっくりと歩いた。
木がカチャカチャと音を立てていたのが、四回から二回に変わった…
親友であり、片思いの相手だった彼が、この呪われた場所で姿を消してしまった…これはまずい。
彼女はすぐに家に帰りたかったが…彼に何かあったのではないかと心配になり、探しに行くことにした。
夜を照らしていた月明かりが次第に薄れ…そして、パタパタという音が聞こえた。シューッ…雨の音。
「………………」
彼女は廊下を歩き続けた。
「ふふっ」
「え?」
今のは……笑い声?
その声を聞いて、少女の足はさらに震え始めた。もうこれ以上歩けない。
「ケイ……あなただったの?……お願い、出てきて。」
少女は暗闇に向かって懇願し始めた。親友の名前を叫んだ。きっといたずらをしているのだろうと思っていたが。
「すすり泣き……すすり泣き……お母さん」
目の前で泣き声が大きくなり……彼女の恐怖は募った。
手が震える…足が震える…何もかもが震えている。
(へへっ)
そして――
「…………」
目の前に赤ちゃんが座って、微笑んでいる。
微笑む…微笑む…微笑む…
「ママ、ママ?」
これは…これは一体…?
だめ!怖い!逃げなきゃ!ケイくんはどこ?逃げて!早く逃げて!逃げて!
ギシギシ…ギシギシ…何十、何百、何千もの足音が、廃病院に響き渡る。
赤ちゃんはゆっくりと、少しずつ、彼女の方へ這ってくる。
「だめ…だめ…お願い…」
少女は赤ちゃんに懇願したが…無駄だった。
だから彼女は走った…
ここから逃げるために。
ギシギシ、ギシギシ、ギシギシ…少女のすぐ後ろから足音が聞こえ、そして…
何百もの赤ん坊が…少女を縛り付け…さらに何千もの赤ん坊が彼女の口の中に押し寄せた。
「えずき…見つめる…」
彼女の口は伝説の裂口女よりも大きく開いた。目は飛び出し、体は動かない。
彼女の腹は膨らみ始めた…伝説の通り。
どんどん大きくなっていく…
「ああ!ああ!!」
彼女の子宮から赤ん坊の泣き声が聞こえた…少女はこれまで経験したことのない激痛に襲われ、膣の中に小さな手が現れ始めた。
赤ん坊の頭が現れた。
赤ん坊の体は魂のように透明だった…そして生まれた瞬間…
「あれは私のママじゃない!」
そして…
轟音とともに…かつて一体だった体は粉々に砕け散った。
病院全体が血で染まった。床、壁、カウンター、椅子、書類、そして病院の壁そのものまでが、少女の血で覆われていた。
彼女の腹部は破裂し、内臓が飛び散った。
ただ一つ、無傷で残った臓器があった。
それは…子宮だった。
そして、腹部が爆発したまさにその瞬間…オイルランプが彼女の体の上に落ちた。
炎が彼女の全身を包み込んだ。
頭からつま先まで。
しかし…病院の床は木製だったにもかかわらず、火は全く燃え広がらなかった。
彼女の遺体だけが…いや…
ドスン
少女の腹部が破裂した遺体と、腹部を切り裂かれ、頭部を切断され、性器を摘出された青年の遺体だけが焼かれていた。
彼らがどこへ行ったのか、誰も知らない。
この場所で何が起こったのか、誰も知らない。
この場所に本当に子供の霊がいるのかどうか、誰も知らない。実際に見た者は皆姿を消してしまったからだ。
だから、それは子供たちの間のただの噂話に過ぎない。




