第3章 : 目が覚めたら、死体を見つけた。
◆◇◆
キキキ……キキキ……キキキ……
鎖の音が耳の中で響き渡っていた……
うっ……あの光は何だ。何も見えない。
「…………………」
誰かが何かを言っている?……どういうことだ?
ここはどこだ?……この人たちは誰だ?
男? 女? 老人? 若者?
意味がわからない……これはどういうことだ。私はどこにいる?
「始めろ」
始める?……何を始めるんだ?
なぜ……痛い……
この人たちは……何をしている?
何かを体に注射している?……なぜ……動けない?
えっ?……なんで発電機を動かしているんだ?
あ……
あ……あ……
あ……あ……
うわあああ!!!!! うわあああ!!!!!!!!
◆◇◆
「うわあああ!!!!!!!!!」
……周り……ここは……
若い女性がある部屋で目を覚ました。まったく見知らぬ場所だった。
部屋はかなり豪華だったが、どうやってここに来たのかがまったくわからなかった。
「夢だったの?……」
夢で済んでよかったが……今自分がどこにいるのかを確かめる方が先だった……
「…………………」
短いオレンジ色の髪の女性が、柔らかいベッドの上に起き上がった。
目が覚めたとき、自分がどこにいるかもわからなかった……
「…………………」
周りを見回した……そして……
隣で白髪の若い男が眠っていた。目が覚めた……
そして二人は、お互いが裸であることに気づいた。
「きゃあああああ!!!!!!」
「うわあああああ!!!!!!!!」
女性の悲鳴に男性も驚いて飛び起きた……
「「えっ?」」
「「誰?」」
二人は背を向け合った。正直に言えば、昨夜のことはまったく何も覚えていなかった……
「「あの!!」」
挙句の果てに一緒に喋り始めた……
「えっと……服を探した方がいいんじゃないか?」
「あ……はい!!」
女性は部屋を探し回った。タンスの中に服を見つけた。
急いで着替えて、男性にも服を渡した。
「その……私は何もおかしなことはしていないからな!!」
「そう言えば言うほど怪しいですよ!!」
服を着てもまだ背を向け合っていた。女性は見知らぬ男性と一緒に寝ていた理由が気になってしかたなかった。
もしかしたら意図せずよくないことをしてしまったかもしれなかった。
「名前は……あなた、名前はなんですか?」
女性が聞いた。男性はしばらく考え込んだ。あまりにも長く考えたので女性が振り向いた。
「それが……わからない」
「えっ!?」
「だから……考えたんだよ!! でも……思い出せないんだ。君は?」
女性は少し困った顔をした。そして自分の名前を思い出そうとした……
二秒後、さっきのことを言った自分を恥ずかしく思った。
「私も思い出せません」
男性は彼女の顔を見た。恥ずかしさで顔を覆って、目をそらした。
「……どうやら昨夜は少し飲みすぎたようだな」
男性がそう結論づけた。女性もとくに否定しなかった。むしろこの説を素直に受け入れた。
「……そうみたいですね」
「部屋を探してみないか? 何か見つかるかもしれない」
「はい」
二人で部屋を探し回ったが、何も見つからなかった。銀貨や指輪といった個人の持ち物があるだけだった。この世界には身分証明書や身元を証明する書類というものがない。そのため誰かが亡くなっても誰かわからないことが珍しくなかった。
身元を確認する唯一の方法は、自分が見覚えのあるものだけだった。
二人は何か不自然なものがないか探したが、やはり成果はなかった。
「……何も見つからなかった」
「同じです」
二人は疲れて背中合わせにもたれかかった。男性は散らかった部屋を見渡した。
「このままだと……俺たちは自分が誰かわからないままになりそうだな」
「どうすればいいですか?」
彼はしばらく考えた。
そして言った。
「じゃあ……お互いに仮の名前をつけ合ってみないか?」
「え?」
「だって……あなたをなんと呼べばいいかわからないんだ。どのみち二人でお互いを探さなければならないんだから……なんと呼ぶかは必要だろう」
女性は頷いた。そして男性の名前を考えた。
「それじゃあ……シロで」
「シロ?……格好いい名前だな。じゃあ君は……」
「カエデにしましょう」
「カエデ……きれいな名前だな」
「そうですか?……うれしいです」
「では……よろしく、カエデ」
「うん……」
カエデが立ち上がり、シロに手を差し伸べた。二人で顔を洗ってから、木の引き戸へと歩いた。
そして部屋を出た……しかし……
「これは……何なんだ……」
それは日本風の邸宅の廊下だった。ホテルの客室などではなかった。そしてそこは無数の遺体で埋め尽くされていた……
「一体、何が……起きたというんだ……」
魔法で攻撃された者もいれば、刀で真っ二つに斬られた者もいた……
「うっ……」
その光景を見たカエデは急いでトイレへ走り、盛大に嘔吐した。
シロはどうにか冷静を保ち、遺体を調べに入った。
「これは……銃か?」
何かを見つけた。それは鉄でできた握り手を持ち、普通の鉄とは触感が違う。コンパクトな形だが、彼の記憶にある「銃」よりはるかに洗練されていた。
銃を手にしたシロは奇妙な感覚を覚えた。
「なぜ俺の手は震えないんだ……」
こういうものは危険なものだと聞いたことがあった。普通の人間はとても掴む気になれない。
しかし彼はまるで当たり前のように持てた。
「俺は……一体何者なんだ?」
「シロ……」
カエデはひどく憔悴した様子だった。シロは急いで体を支えた。
「覆って」
シロは自分のコートを取り、カエデの顔に被せた。少し楽になった様子だった。
「ありがとう」
「外に出よう」
ここは邸宅に違いなかった……しかし、なぜ二人はここにいるのか。
二人は廊下を進んで出口を探した。長い間さまよった。
途中も遺体が床に転がっていた。
「うっ……」
出口を見つけるのに苦労したが、やがて外に出られた。
「はあ!!」
コートを外すと、カエデは深く息を吸い込んだ。
「大丈夫?」
彼女はゆっくりと頷いた。そして周りを見渡した……
「ここは……」
外に出ると、江戸のある住宅街の一角だとわかった。見知らぬ場所に来ている二人はますます混乱した。
ザー……
雨が静かに降り始めた。強くはなかったが、二人は上着で頭を覆おうとした……
まるで新婚カップルのようだった。
二人は住宅街を歩きながら、ここがどこかと尋ね回った。
ジェポンネ帝国の江戸という都市で、この辺りは「新宿」という地区だとわかった。
さっきまでいた家には表札がかかっていた。エミリたん邸宅と書いてあり、家の名主について聞いてみた。
「ああ……エミリたんって、めちゃくちゃ有名なアイドルだよ。あれっ……二人とも知らないの?」
シロとカエデは首を横に振った……
「それはまた……街の外から来たってことかな……じゃあとりあえず入りなよ。この辺は寒いし、雨に濡れたら風邪引いちゃうよ」
感じの良さそうな若い男性がタオルを持ってきてくれた。二人はその優しさに礼を言った。
しばらくして彼はラーメンを二杯出してきた。実はこの男性が近くのラーメン屋の店主だったのだ。
「どうぞ……サービスだよ」
「えっ?」
カエデは戸惑った。なぜそんなことをするのか理解できなかった。
「いや……さっきずっとうろうろしてたのを見てたからさ……いいからほら、食べて」
シロとカエデは顔を見合わせた。何も食べていなかった二人は素直に頷いた。そしてラーメンを食べ始めた。
「ほら……見た感じ外国の方みたいだね。箸は難しいだろうからフォーク持ってきたよ……ははは」
「ありがとう……」
二人が言うと、男性はすぐに首を振った。
「気にしないで」
穏やかでユーモアのある言い方だった。
「美味しい!」
「本当に!!」
二人は麺を啜るのが止まらなかった。久しぶりに感じる美味しさに夢中になっていた。
「そんなに急いで食べたら喉に詰まるよ……」
店主は冗談っぽく言ったが、二人は構わず食べ続けた。
柔らかくてぷりぷりの麺。
昨日からじっくり煮込んだスープ。少し塩気があるが、まろやかな深みがある。
それぞれの具材がスープとよく合う。
体が、一度も味わったことのない味だと即座に答えた。
比喩ではなかった……二人は記憶を失っていたが、体は「麺でできたこの料理」というものを一度も口にしたことがないと感じていた。
店主は二人を優しい目で見守っていた。
二分も経たないうちにラーメンをきれいに平らげた……
「お腹いっぱいです」
「僕も」
店主がくすりと笑い、二人に水を持ってきてくれた……
「で……これからどこへ行くつもりなんだ?」
「その……自分たちが誰か探しに」
シロが短く答えると、店主はすぐに笑い出した。冗談を言っていると思ったらしかった……
「そう?……まあ、少し休んでから移動しなよ」
本当に親切だった。
ここの人たちが気さくでいい人ばかりだとわかると……シロとカエデは自然と微笑み合った。
「助けてください!!」
助けを求める声が商店街に響き渡った。最初は気のせいかと思った。
「誰かっ!!」
しかし今度はそうではないと思った。
二人は声の方へと走り出した。建物を二棟ほど通り過ぎると、盗賊の一団が三人の女の子たちを力ずくで連れ去ろうとしているのが見えた。
「やめて! 私を連れて行って。妹二人だけは連れて行かないで!」
姉らしき少女が懇願していたが、盗賊たちは三人まとめて連れ去ろうとしていた。
「盗賊だな……カエデ、どうする?」
聞き終わらないうちに……カエデはすでに盗賊たちに向かって走り出していた。
「ふんっ!」
彼女は盗賊の一人の喉元を蹴り倒した。
「なっ!? うっ!」
二人目も顔面を蹴り飛ばした……
「この女!!」
残りの二人が剣を抜いた。カエデはすぐさま二人の腕を同時に掴み、足で剣を蹴って折った。
そして肘で二人の顎を打ち、床に倒した……
攻撃的な意図で近づいてくる者は、即座に喉元への蹴りで返した。
「くらえ!!!」
さらに数人の盗賊がカエデに向かってきた。彼女は一人の腕を掴んで地面に投げ飛ばし、すぐに膝を落として別の一人の足を払い、さらに地面に叩きつけた。
「捕まえた!」
数で勝る方が、カエデを捕まえた。
その盗賊は背中をツンと突かれたような気がした。振り返った。そのコンマ何秒のうちに……シロがカエデを掴んでいた盗賊の顔を一発で殴り、気絶させた。
「ありがとう」
「何をしている!! 早く片付けろ!!」
安っぽい悪役がよく口にするような言葉が、リーダーらしき盗賊の口から出てきた。
リーダーのくせに少女二人を人質にしていた。なんとも情けない……
大柄な男たちが二人に向かって突進してきた。シロとカエデは手を繋ぎ、シロはカエデの体を振り回して盗賊たちを次々と蹴り倒した。
シロがカエデを放すと、彼女はリーダーの盗賊の顔を蹴って地面に倒した。
「うわあ!!」
二人の少女は縄を解かれ、すぐに姉へと駆け寄って抱きついた。
「早く行って……」
「ありがとうございます!!」
パ……
パパ……
パパパ……
拍手が響き渡った。地面に倒れている盗賊たちの中で、雨に濡れながらも人々が出てきて二人に拍手を送っていた。
シロとカエデは顔を見合わせて微笑んだ。言葉にできないほど清々しい気持ちだった。
そして同時に……言いようのない疑問が湧き上がってきた。なぜ自分たちは盗賊の一団を相手にできたのか。
{私たちは……一体何者なんだろう}
雨はどんどん強くなっていった。やむ気配はなかった……
しかし江戸のもう一方……東江戸では……
まだ恐ろしい出来事が続いていた。
アイドルが起こした殺人事件だけではなかった。
廃病院の中で……さらに背筋の凍る出来事が起きていた。




