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#12 悪魔的軍人

「何事か!」


 トラエッタ少将が叫ぶ。が、デルフィーノ中尉はこう返す。


「テロリスト集団の会合が、ここで行われると聞いて突入しました」

「馬鹿なことを言うでない! そのような場所に、私がいるはずがなかろう!」

「我々はトラエッタ少将閣下ではなく、タルデッリ少将の命によって動いております。この場にいる者を、可能な限り捕らえよ、と」

「その命令は無効だ。私はお前の上官でもあるのだぞ」

「直属ではありませんし、第一、どうしてこの場に閣下がおられるのです?」


 その中尉の問いかけに、一瞬、トラエッタ少将は言葉を失う。が、すぐにこう言い返す。


「そ、それは、テロリストがここにいると聞いたからやってきたのだ!」


 それを聞いた、おそらくはテロを企んでいた貧民姿のこの星の住人らの表情が歪む。彼らは、裏切られた。そうその顔の表情は訴えていた。

 だからデルフィーノ中尉は続ける。


「ならばなぜ、突入してきた我らをいきなり撃ったのですか? しかもここには人体探知機が効かないよう、反射材で覆われております。なによりもそのテロリストたちが、我々が突入するまで無傷だったのはなぜです?」


 そう、テロリスト襲撃に現れた我々よりも先に突入しておきながら、彼らは無傷だった。我々が突入し、攻撃するまでの間、やつらは健在だった。

 だいたい、突入したというならどうして、扉に鍵がかかっているのか。我々と同様に、破壊して突入するはずだ。言い訳にしては、あまりにも雑過ぎる。

 少なくとも、トラエッタ少将にとってはまさしく青天の霹靂だったことだろう。まさか自分が参加する会合に、同じ司令部付きの別の先頭集団が突入してくるなど、予想だにしていなかったはずだ。

 が、足を撃たれて動けなくなった貧民姿の過激派と、我々に攻撃してきた兵士たちを次々に捕らえる。残るは、トラエッタ少将のみとなる。


「まもなく、迎えの車が来ます。閣下も当然、同行なさいますよね?」


 そうデルフィーノ中尉が叫んだ、その時だ。

 トラエッタ少将は、腰に備えた拳銃を抜き、デルフィーノ中尉に向けてそれを放つ。

 しまった。油断したデルフィーノ中尉に向けて、ビームが放たれる。が、そのビームを阻む者が現れる。

 そう、カトリーヌだ。

 ビームはカトリーヌの左わき腹を撃ち抜いた。そのおかげで、デルフィーノ中尉は無傷だ。撃たれた悪魔は、その場にて倒れ込む。

 まだ銃を構えていたトラエッタ少将に向けて、デルフィーノ中尉は一撃を放つ。それはトラエッタ少将にではなく、その手に持った銃に向けて放たれた。


「ぐはっ!」


 銃を弾き飛ばされたと同時に、二人の兵士らがトラエッタ少将の両腕をつかむ。他の兵士らとともに、迎えに現れた軍用車へと連れていかれた。


「おい、しっかりしろ!」


 だが、犠牲が出た。悪魔とはいえ、カトリーヌが撃たれてしまった。左わき腹からは、黒い血のようなものが流れ出ている。


「おい、応急措置だ。まずは止血、そして……」


 デルフィーノ中尉は部下に指示を出す。が、その彼らの前で、信じがたいことが起きる。

 そう、その悪魔の左脇腹が徐々に再生していく。それはまるで動画の逆再生のように、悪魔の身体の傷が消えていく。


「見たか、(わらわ)は最強の悪魔なるぞ。あの程度の一撃で、倒されるものか」


 言われてみれば、帝都の図書館に残されている記録によれば、伝説の悪魔というものは不死身だと書かれている。多くの騎士が斬ってかかったが、その傷はすぐに治り、逆に凶暴な呪いをかけられ命を落としたと、そう記されていた。

 にわかには信じがたい事実だったが、目の前でそれを目にした以上、信じざるを得ない。


「さて、(わらわ)も力を使い過ぎた。腹ごしらえせねばな」


 と、能天気にそう呟く悪魔であったが、デルフィーノ中尉にはすぐにやらねばならないことがあった。

 そう、事の仔細を、直属の上官であるタルデッリ少将に伝えることである。


「……はい、まもなくそちらに到着します。こちらの記録は、全て送信します。トラエッタ少将閣下がいかような言い訳や虚言をしても、それを覆す証拠となりましょう」


 まさに、決定的な証拠だった。この場にて捕らえたのは、全部で12人。内、トラエッタ少将麾下の兵が5人に、テロを企んでいた帝都の反宇宙派の連中が6人。

 そして、トラエッタ少将。これで12人、全員だ。

 その酒場の地下庫からは、多くの爆薬が発見された。ビーム粒子を用いたものではなく、古典的なニトロ系の火薬だ。

 とはいえ、殺傷力は高い。こんなものをショッピングモールで用いたならば、間違いなく百人単位の犠牲者が出たであろうことは間違いない。


 で、司令部に連れて行かれたトラエッタ少将は、脳波尋問を受ける。本人は当然、黙秘を続ける。だから、こちらから一方的に質問を投げかけ、脳波の反応を見る。これで、彼の「本心」を読み取ろうというのだ。

 いくら心の中を沈めようとも、テロリストとの関係がすでに判明しており、それを立件するための証拠集めに動いていたこと、テロリストとの暗号電文に使われていたコードがトラエッタ少将の者であったことなどから、彼がテロに加担していたことは間違いない。

 問題は、軍功を立てて順当に出世していたこの少将閣下が、どうして反逆に手を染めることになったのか?

 その理由が、明らかになる。


「は? それは本当か」

「はい、間違いありません」


 何ともあっけない動機だった。

 それは、サバティーニ大将を貶めるためだったのだという。


「なぜ、サバティーニ大将閣下を貶めようと?」

「前回の会戦にて、追撃戦で艦隊の一部を突出させ、その結果、大損害を受けたあの戦いの顛末を、覚えておりますか?」

「ああ、あの時はサバティーニ大将閣下はその追撃戦の際、無意味に艦隊の一部を前進させた。その命令を下した張本人でありながら、その際に生じた損害の責任を、突出した分艦隊司令のアンブロ―ジオ少将のものとして片付けてしまった」

「その通りです。で、その時の部下の一人が、当時のトラエッタ准将でした。閣下はアンブロージオ少将を大変尊敬しており、その更迭人事に心底、怨んでいたそうです」

「だが、変だな。それならばどうして、トラエッタ少将はその後、アンブロージオ少将の後釜として出世できたんだ? あの後、サバティーニ大将に取り入り、そのおかげで今の地位を得たという噂だぞ」

「おそらくは、全て復讐のためでしょう。反宇宙派のテロリストたちに取り入るときも、その最高司令官を陥れるためだと言って彼らに取り入り、やがて爆発物や銃などを供与するようになったと聞いております」

「……で、その結果が、二度のテロか」

「最終的には、それをどうにかしてサバティーニ大将閣下の責任に仕立て上げ、彼を追放するきっかけにしようと考えていたようです」

「なんとまあ、大胆なことだな」

「それにしても、動機はともかく、それ自体がサバティーニ大将閣下を責められるものではありませんね。いくら恨みを晴らすためとはいえ、無辜の市民を大勢、犠牲にしたのですから」

「そうだな。自らの恨みを晴らすため、自らも悪魔に心を売った。そういうことになるな」


 と、その会話を聞いていた本物の悪魔は、こう言い出す。


「ほほう、なかなか良いやつではないか。いっそ、そいつに取り憑いておれば、(わらわ)も自らの願望を成就できたというのに」

「冗談じゃない。むしろ、こっちに取り憑いてくれて幸いだと考えたくらいだぞ。悪魔に悪魔を加えたら、一体何をやらかしていたことやら」


 ほくそ笑む悪魔の横で、デルフィーノ中尉は頭を抱える。本来であれば、もう少し証拠を集めてからタルデッリ少将に話すつもりだった。が、想像以上に早く、向こうから馬脚を露した。

 悪魔にまで取り憑かれ、散々、テロ防止に奔走した結果がこれだ。無論、テロ行為自体は止まないだろうが、爆発物を用いたテロは今後、行えなくなる。ついでに言えば、カトリーヌ以外に封じ込められた大悪魔もいない。帝都内のテロリストたちができることと言えば放火か襲撃ぐらいだが、少なくとも宇宙港の中でそれらを実行することはほぼ不可能だ。武器は持ち込めないし、火をつけたとしても町中に備え付けられた自動スプリンクラーによって消されてしまう。


「これをもって、軍のテロ対策組織は縮小されるだろうな」


 悪魔の言葉を無視して、デルフィーノ中尉はこう言い放った。さすがに帝都でも、徐々に反宇宙派の者たちも減ってきた。彼らが降り立ってから一年近くが経過し、徐々に彼らの暮らしに影響を与え始めている。それも、良い方向に。

 特に、食糧事情が大幅に改善された。夏でも冬でも、新鮮な肉や魚を帝都内で入手することができる。アイスクリームやチョコレートなどの甘味も、平民でも手に入れることができるようになった。それだけでなく、この星の住人にとっても実入りのいい仕事が増えつつあった。

 生活が改善されたとなれば、それに反対する者の数が減るのも道理である。かつては得体の知れない存在だったが、これほどまでに生活に入り込んでくれば、徐々に恐怖心も薄れる。しかも、どちらかと言えば逆の効果をもたらした。

 それを無理やり焚きつけていた者が、軍司令部内にいたという事実にも驚愕だが、本来、反宇宙文明のために立ち上がった者たちが、その宇宙からもたらされた危険物に頼るという、何とも矛盾した結果をもたらした。目的達成のために、その排除対象の力を借りる。これほど皮肉な話があろうか。


 ともかく、この先は大規模な破壊工作は起こり得ないだろう。

 いや、それはサバティーニ大将次第か。

 デルフィーノ中尉は考える。次の艦隊戦闘が勃発し、そこでまた無意味な損害を出すようなへまをやらかしたなら、第二、第三のトラエッタ少将が出てくるかもしれない。


「……おい、聞いとるのか、デルフィーノよ!」


 と、そこで中尉は、悪魔が何やら騒いでいることに気付く。


「なんだ、騒がしいな」

「お前が呼びかけても反応せんからだろう」

「で、なんだ。この先、テロは起こらなくなるだろうから、ようやく俺から離れる気になったのか?」

「未契約の身では、離れたくとも離れられんわ。それよりもじゃ」

「どうせ、食事にでも行きたいというのだろう」

「そうじゃ、決まっておろう。今日は久々にあの溶岩焼きステーキの店がよいな」

「何が久々だ、つい先日、行ったばかりだろう」


 テロの心配はなくなりつつあるが、この悪魔だけは取り憑いたままだ。困ったことに、離れようとしない。


「ほれ、さっさと参るぞ」


 だが、3メートル以上離れないこの悪魔との生活に、デルフィーノ中尉は徐々に慣れつつあることに気付いている。むしろ、この堕落した悪魔に対し、好意を覚えつつもあった。

 この作戦参謀士官は一つの職務を終え、そんな悪魔を伴いつつショッピングモールへと向かった。

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