旅
残りの道のりで、護衛隊は無事に商隊を送り届けることができた。
翌日、トリフェインたちは数人の護衛隊のメンバーと一緒に帰ってこられた。
宿屋の主人とは四日ぶりであった。
あたりも薄暗くなってきている。
「あんたも人が悪いよ。本当にヒーラーだったなら、そう言えばよかったのに。
まあ、駆け落ちして目立つわけにもいかなかったんだろうけどね」
と宿屋の主人は言った。
「やれやれ、駆け落ちはしていないよ。目立つわけにはいかなかったとは思うがね」
とトリフェインは答えた。
宿屋の主人はニヤニヤしながら言う。
「それはそうと、ヘレンさん。あんたにゃ仕事が来ているよ。明日、紹介所へ行ってみるといい。一度の旅で名を挙げたらしいね」
「それはありがたい。アヤカ、明日、早速行ってみようか。今日はゆっくり休ませてもらうよ」
アヤカは、ヘレンより先に勢いよく階段を上がっていく。
トリフェインも自分の部屋に行き、フードを脱いだ。
そして、自分がヒーラーになったことを自覚しなければと思った。
確かに、人を治すことで金を得れば、食べることに困ることはなさそうだ。
だが、この能力を使いすぎると、神殿が握っている治癒の価値を落としてしまう。
ヒーラーを抱える神殿は、敵になる。
なるほど、ヒーラーになってみると、神殿が小さな子の時から引き取るはずだと思った。
野良ヒーラーを許せば、神殿の価値が下がってしまうからだ。
早々に「ワイド」パーティの仲間を探しに旅に出よう。
次の日は、晴天であった。
ヘレンとアヤカは、宿の主人に言われた紹介所へ向かった。
名乗ると、紹介所の男が言った。
「あんたが、犬狼の首を掻っ切って、クロスボウの二射で致命傷を与えた女戦士かね」
すると、別の客が口を挟んだ。
「違う違う。その小さな子がクロスボウの子だよ」
「へえ、そうなのかい」
アヤカは小さくうなずいた。
「あんたには、いい仕事がたくさん来ているよ。娘さんの結婚式へ向かう荷の護衛とか、弓の腕を披露するだけで報酬をもらえそうなものもある」
ヘレンは、そいつはありがたいね、と答え、一番単価が高いものを教えてくれと言った。
ヘレンは仕事を受けつつ、アヤカに小さな声で言った。
「アヤカ。ちょっと有名になりすぎているね。いくつか仕事をしてお金を貯めたら、旅に出るよ」
アヤカは寂しそうな顔をした。
「犬狼、倒さなければよかったね」
とアヤカが言う。
「そうもいかなかったさ」
ヘレンはアヤカの頭をなでた。
「仕事は明日からだ。今日は買い物に行こうか。いろいろそろえなきゃな。トリフェインにお菓子でも買って帰ろう」
アヤカは頷きながら、ヘレンの手にしがみついた。
夕食は、宿屋の一階で三人そろって食べていた。
「ヘレン。いい依頼はあったかい」
「ああ、あった。明日行くことになった。ちょっとした護衛かな」
とヘレンは答えた。
「そうか。では、私の依頼はここまでとしよう。私は明日、旅に出ようと思う。仲間探しを再開させようと思う」
トリフェインがそう言うと、アヤカが驚いた顔をした。
ヘレンはアヤカの耳元に口を寄せた。小さな声で
「トリフェインを巻き込まないように、離れなきゃいけない」
そして、トリフェインに向き直る。
「そうか、トリフェインは旅立つか。世話になったな。トリフェインがいなければ、アヤカの命も危なかったかもしれぬ。母と娘という組み合わせで、こうも早く仕事が集まるのもトリフェインのおかげだ」
ヘレンは頭を下げた。
「ヘレンがいなければ、私は自分がヒーラーであることすら気づかなかったかもしれない」
アヤカが、トリフェインにお菓子を差し出した。
「ありがとう。アヤカにも世話になった」
トリフェインは、アヤカの頭を優しくなでる。
アヤカは目に涙をためていた。
「なあ、トリフェイン。最後の夜だ。聞いていいかな」
「なんでも聞いてくれ」
「『ワイド』パーティのことが聞きたいな。探している仲間ってのを聞きたいね」




