偽ヒーラーの治療
護衛隊長は焦っていた。
商隊の人にも荷にも損害はなかった。
しかし、護衛隊に困ったことが起こった。
怪我人が大勢出たのである。
この護衛隊には、ヒーラーがいることになっている。
ヒーラーが偽物であることがばれれば、契約違反である。
護衛の仕事は、あと一日残っている。
これだけの戦闘を行っておきながら報酬が入らなければ、大損どころではない。
護衛隊の存続が危うい。
「真似事でいいから、ヒーラーをやってくれ」
護衛隊長は、トリフェインにこっそりとつぶやいた。
「真似事でいいのかい」
トリフェインは笑いながら、怪我人たちのいる部屋へ歩いていった。
目の前に怪我人がいて、以前のディフェンダーの経験から、その痛みも分かる。
真似事ではなく、本当に治療を行った。
ヘレンとアヤカも、この際やむをえないと言っている。
ただし、きれいに治しすぎるなとヘレンに注意を受けた。
犬狼の相手をしていて膝をついた男の足は、膝下の肉を牙でごっそり削られ、骨に届いていた。
それを、トリフェインは傷跡もなく治してしまった。
さすがに、このヒーラーの能力のすさまじさには、トリフェイン自身も驚いていた。
ヘレンも、能力が高すぎると感じた。
その男には、ヘレンが口止めした。
「この方は、名乗れないが高位のヒーラーなのだ。実は、お忍びの旅をしている。この能力が知られると、お前も命が危ない。黙っておくことだ」
ヘレンの腕とアヤカの活躍を知っている彼は、
「だから、あんたたちのような凄腕がついているのだな。分かったよ。足が助かったんだ。黙っとくぜ」
と言っていた。
それ以降は、傷跡は残るが、旅に支障がない程度まで治していく。
骨折した者には、ディフェンダー時代の経験から、骨を合わせるために患部を引っ張る処置を行ったあと、ヒールで治した。
そのため、悲鳴も聞こえていた。
また、ヒーラー能力の限界も見えてきた。
欠損した指などは、生えてきたりはしないことだ。
しかし、ある程度つながっていれば治ることも分かってきた。
そして、全員の治療が終わるころには、トリフェインは疲れ切っていた。
その日、トリフェインはいつ自分の部屋に戻ったか覚えていない。
次の日の朝食の時、護衛隊長がやってきた。
「あんた、昨日何人治したか分かっているのかい。ああいうのを見てしまうとな。あんた、どこかの神殿のエリートじゃないのか。隣の女騎士と駆け落ちしたんじゃないかという話があってな」
ヘレンが笑っていた。
トリフェインは言った。
「いろいろと話せない事情があるのさ」
「まあ、今日も頼むぞ。おかげで全員で出発できる。感謝している」
護衛隊長は持ち場へ帰っていった。
アヤカは、お腹が空いていたらしく朝食をほおばっていた。
トリフェインは、この仕事が終わったら「ワイド」パーティを探そうと思った。
彼らも、きっと生きている。
困っているかもしれない。
ディフェンダーとして守れなかった仲間を、ヒーラーとしてなら救えるかもしれない。




