守られる役
お互いに部屋に戻り、しばらくして、ヘレンとアヤカはトリフェインの部屋を訪ねた。
トリフェインは、アヤカの傷を確かめた。
「この年で、ヒーラーになるなんて聞いたこともない」
トリフェインはつぶやいた。
「トリフェインは、何歳なの?」
とアヤカが尋ねた。
「私の記憶が確かなら、三十五、六歳というところだろう。過去の記憶があいまいになっているところがあってな」
トリフェインが答えると、ヘレンが言った。
「ヒーラーなど滅多に見ることがないのだ。自分に才があることに気づかない者は、存外いるのかもな」
トリフェインは、しばらく考え込んだ。
「ヘレンはなぜ、安らいだイメージが治癒に結びつくと知っていたんだい」
「私は三姉妹の長女でね。末の妹がヒーラーの能力を持っていた。その能力を使うときは、森をイメージすると心が安らいで、近くにいる者の痛みも和らぐと言っていたからだ。
ただ、妹は痛みを和らげることはできても、傷は治せなかった。あの時は、アヤカの痛みが少しでもなくなればと思っていたのだが、傷も腫れも一瞬で治してしまうとは。ヒーラーの中でも、トリフェインは高位のヒーラーということだ」
アヤカが、トリフェインを見上げながら尋ねた。
「傷を治しているとき、どんなイメージを浮かべたの?」
「大樹が歩いていて、その後ろを獣たちが仲良く歩いてついていくイメージかな」
「なんだか、面白い」
「話していて、確かに滑稽だな」
トリフェインはそう言った。
あの、何もかも包み込んでしまいそうな大樹を表現する言葉を持たないことが、残念であった。
「私は、もともと前衛で、敵と最初にぶつかり合うディフェンダーなんだ。こんな細い体では想像できないかもしれないがね。はてさて、どうするかな」
ヘレンは腕を組み、トリフェインに微笑みながら言った。
「そう悲観するな。希少なヒーラーだ。もう金には困らない、ありがたい能力だと思っておけばいいのだぞ。まったく、うらやましい限りだ。さて、金を稼がねばならぬ私としては、宿屋から聞いた依頼とはどんな仕事なのか気になるね」
トリフェインは、宿屋の主人から聞いた話をすべて二人に話した。
「いいね。うまくいけば、何事もなく終わる仕事じゃないか」
ヘレンが言うと、トリフェインは答えた。
「正直、うまくいかず戦闘になったら、私の体力では自分の身も危ない」
ヘレンが笑った。
「ヒーラー役だろう。守られる役だ。いい機会だ」
アヤカに、
「今度は私がトリフェインを守るから」
と言われ、幼い子どもに守ると言われる自分になったのかと、トリフェインは「やれやれ」とつぶやいた。
「ヒーラーの役をするということで仕事を受ける。本物のヒーラーだとあてにされても困る。
それに、ヒーラーであることは、できるだけ秘密にしたい」
トリフェインは、そうヘレンとアヤカに伝えた。
二人は頷いた。




