野良ヒーラー
「お礼を、と言いたいのだが、持ち合わせの金は、ほぼ全額を街の薬屋で熱冷まし薬に支払ってしまった。これからの食事にも事欠く。だが、必ず支払う。仕事を探すところからだから、時間はかかるが」
ヘレンはトリフェインに話していたが、トリフェインは、まだ手のひらを見つめ、ヒーラーの力を持っていることに戸惑っていた。
トリフェインには相談相手が欲しかった。
トリフェインは言った。
「ヘレンは、ヒーラーのことをよく知っていそうだ。相談相手になってほしい。しばらくの間なら、食事と宿代は私が出す。もしかしたら、仕事も見つけられるかもしれない」
ヘレンとアヤカは目を合わせた。
「それは正直助かる。この街は広すぎる。端から端へ行くだけで丸一日かかりそうで、薬屋を探すのも一苦労でな。この街を知っている知り合いが必要だと思っていた」
ヘレンがそう言うと、トリフェインは答えた。
「実は私もこの街に来たばかりで、正直、何も分からない。運よく、良い宿と宿屋の主人に出会えただけだ」
「ありがたい話だが、これ以上の恩を返せない。返せない恩は作らないようにしている」
トリフェインは考えた。
「であれば、私の護衛として雇われてくれないか。仕事内容は、私の護衛と、ヒーラーの能力をどう使っていくかの相談相手だ」
ヘレンはアヤカを見た。
「ありがとう。トリフェイン殿、あなたを信じてみよう。その仕事、受けさせてもらうよ」
ヘレンとトリフェインは握手した。
アヤカはヘレンを見て微笑んだ。
「まずは、私がいる宿屋に行こう。一階で食事がとれるのだ。アヤカの顔色もまだよくない。
まずは、休める場所へ行こう」
トリフェインはヘレンに、歩きながら、ヒーラーの能力を得たことは秘密にしておきたい、と伝えた。
ヘレンも同意した。
本来、ヒーラーは神殿に属する存在で、いわゆる野良ヒーラーは滅多にいないからだ。
また、三人の関係を聞かれたら、探している「ワイド」パーティのメンバーということにしよう、と伝えた。
アヤカがいても大丈夫かとヘレンが尋ねると、トリフェインは言った。
「そういう家庭的なパーティだったと思ってもらおう」
三人は宿屋に帰った。
宿屋の主人は言った。
「さっそく、仲間が見つかったのかい。魔獣専門のパーティと聞いていたから、男だと思っていたよ。まさか女に子どもとはね。まさか妻子かい」
トリフェインは答えた。
「妻子ではないよ。女と子どもと思って侮らないほうがいいぞ。二人とも立派な戦力さ」
「そうかい」
トリフェインは主人に尋ねた。
「この二人に部屋は空いているか」
「客が増えるのはありがたいことだ」
宿屋の主人はヘレンに向けて鍵を差し出した。
「あんた、名前は?」
「私はヘレン。この子はアヤカだ」
「そうかい。食堂も利用してくれ。自慢の味だからよ」
「そうさせてもらうよ。あと主人、仕事も探している。いつまでも仲間に世話になるわけにはいかなくてね。いい紹介所を教えてくれ」
宿の主人はヘレンの全身を見た。
ヘレンは上質の革鎧と剣を見せる。
「その身なりなら、探しているのはアタッカーとしての仕事だな」
「まあ、女剣士の需要は運がよければあるだろうよ。ただ、評価と信頼がまだないからな。しかも子連れだからな。難しいと思うぜ」
トリフェインが話に割って入った。
「金が必要になった。条件が変わった。あの仕事は、まだ大丈夫かい。この二人が入ることが条件だがね」
宿の主人は指を鳴らした。
「おっ。いいね。次の人材が見つからなくて困っていたんだ」
宿の主人はヘレンに向けて言った。
「あんたも顔を売るチャンスが来たぜ」
話が見えず、戸惑ったヘレンとアヤカは、困った顔でトリフェインを見た。




