治癒
傷に触れて治癒するのは、ヒーラーにとって一般的な傷の治し方だ。
ディフェンダーをしているときは、何度も世話になった。
触れるということ自体に意味があるのではなく、傷との距離の問題らしかった。
トリフェインはヘレンに言った。
「信じられないだろうが、私はこの細い体になる前はディフェンダーだった。ヒーラーではない。魔法の出し惜しみをしているのではないよ」
ヘレンはトリフェインに強い眼差しを向けた。
「それでも、頼む。傷の場所が分かるのは、ヒーラーの才能があるからだ。
真似事でよい。やってくれないか。傷からの高熱だ。この子はこのままではまずいんだ。
腕を切り落とすこともありえる。頼む」
ヘレンの必死さに押され、気休めになるならばと、トリフェインはアヤカの膿が出て腫れ上がった左腕の傷に触れた。
何も起こらなかった。
「あんたが、今までで一番安らいだイメージを思い浮かべてくれ……頼む」
トリフェインは、その必死さに気圧された。
そして、ヘレンは剣の柄をぐっと掴んでいる。
トリフェインは、目を閉じた。
大樹を思い出す。
目覚めた時の穏やかさと、大樹の後に続く、様々な大きさの獣たち。
そこには食う食われる関係すらなく、ただ大樹の後ろをついていく穏やかな風景があった。
トリフェインは、いつまでそうしていたか覚えていない。
目を開けた時、ヘレンがアヤカを抱きしめていた。
アヤカはまだ顔色が悪かったが、穏やかな表情になってヘレンを見ている。
幸せな風景だった。
ヘレンが言った。
「ありがとう。あんたに、ここまでヒーラーの才能があったとはね。助かった」
アヤカの左腕を見ると、膿も腫れもなくなっていた。
傷跡すらない。
トリフェインは、本当に自分がやったのかと、アヤカの左腕と自分の手のひらを何度も見返した。
「あんた、本当に自分にヒーラーの才があることを知らなかったのかい」
トリフェインは肩をすくめた。
「世話になったことは、数えられないぐらいあるが、自分にヒーラーの才があるなど考えもしなかったよ」
トリフェインは、この才が大樹に出会ったことで与えられたものなのだと自覚した。
ヘレンはトリフェインの両手を取った。
「何にせよ、あんたには感謝する。名前を教えてくれないか。恩人をあんた呼ばわりするのはやめたいのだ」
「私はトリフェインという」
ヘレンは言った。
「トリフェイン殿。娘を助けてくれてありがとう。この恩は忘れない」
アヤカもそれに続いて、
「忘れません」
と言った。




