ヘレンとアヤカ
宿の主人は、トリフェインに今日何をして過ごすのかを尋ねた。
「人探しをするつもりだ。『ワイド』ってパーティを聞かないかい? 獣型の魔族退治を専門としているのだが……知らないかい」
「知らないねえ。有名なのかい」
「私が以前いた街ではな」
主人は笑って、別の街のことなら自分が知らなくても当然だと答えた。
トリフェインは宿を出て、歩き回った。
主人から聞いた「情報屋」を探したが、見つからなかった。
歩いていると、急に腕を掴まれ、細い小道に引っ張り込まれた。
「あんた、ヒーラーかい?」
手を離さないまま話しかけてきたのは、女性だった。
旅人のフードを被っており、反対の腕で小さな子を支えていた。
その子はひどく顔色が悪かった。
トリフェインは言った。
「すまない。見た目はヒーラーだが、能力はない。その子かい。体調が悪そうだな」
「この娘は昨日から熱があってね。街の医者にも診せたが、原因が分からなくてね。切羽詰まっていたんだ。思わず引っ張ってしまったよ。許せよ。すまなかった」
その子はとても辛そうだった。
母と娘ではないようである。
トリフェインを掴んだ女性は、金色の髪に青い瞳。
娘は黒い髪に、黒い瞳であった。
女性は剣を携えていた。
細身だが、風格のある剣であった。
二人とも、フード付きのローブの下に革鎧を身に着けていた。
トリフェインは娘を見ていて、「解った」と感じた。
「その娘、左腕にけがをしているんじゃないかい」
そう言うと、娘はビクッとした。
その様子を見て、女性は娘のローブの中から左腕を引っ張り出した。
娘の左腕には大きな切り傷があり、周りが膿んでしまっていた。
「なんで黙っているんだい。膿んでしまっているじゃないか」
娘は泣きそうな目に涙をためていた。
「血はつながっていないが、私は母親代わりだ。我慢しないで正直に伝えてくれていれば……。
置いていかれるとか、考えていたんだろう」
女性がそう言うと、娘は、
「だって……」
と泣き出してしまった。
女性はトリフェインを見た。
「なんで、けがの場所が分かったんだい」
トリフェインは自分でも不思議で、首をかしげた。
「なぜかな。分かったんだよ。昔、ディフェンダーの経験があったからかな」
実際、トリフェインは、なぜけがからくる熱だと思えたのか分からなかった。
「『気がした』ではなく、『解った』のではないのか」
トリフェインは「そうだな」とうなずいた。
「私の名はヘレンという。この子の名はアヤカという。あてのない旅をしている。
金は払う。すまないが、この子の傷に触れてみてはくれないか」




