ヒーラー
トリフェインは、辺りが薄暗くなってきたので、宿を探すことにした。
訪れた街は大きくはなかったが、価格が安めの旅人向けの宿も見つかった。
宿屋の主人に職を聞かれたので「ディフェンダー」と答えたら、
「その体型でディフェンダーとは、面白いことを言う」
と笑われた。
職を探している旅人という形で通してもらった。
よい主人だ。
次の日、トリフェインは、もう一度街で仲間を探そうと宿を出るとき、主人から声をかけられた。
「兄さん。職探しかい。いい話があるんだがね。聞くかい?」
「ありがたい。金は節約したい。話を聞かせてくれないか」
と答えた。
主人が手招きをし、小さな部屋に通された。
主人が口を開いた。
「内容は簡単だ。知り合いの護衛隊に、大きな商隊の仕事が入った。
でだ、契約では回復役のヒーラーも所属している護衛隊、ということになっている。
だが、ヒーラーなんて滅多にいない。いても、あっという間に神殿へ連れていかれるからな。
神殿から派遣を頼めば、目が飛び出るほど高額だときた。
そのくせ、出番がなくても支払う金は変わらねえ。
それで、あんたの細くてひょろっとした体型は、ヒーラーの雰囲気がある。服はこっちで準備する。
ヒーラーのまねごとをしてほしいってことだ。どうだ、兄さん」
トリフェインは、すぐに手を振って断った。
ヒーラーの魔法は、神を心から信じる者に対して与えられた奇跡と言われていた。
だから、護衛隊にヒーラーがいるというだけで箔がついた。
護衛隊にヒーラーがいるということは、神の加護があるという理屈だ。
しかし、かつて同じパーティにいたヒーラーが言うには、実情は違うらしい。
生まれた時から魔法が使える者を神殿が引き取っているだけで、神の権威云々は後付けだと言っていた。
それに、ヒーラーと言っても、痛みを和らげるだけでそう呼ばれる者もいる。
一般的には、動かずに休ませた状態で切り傷を癒せる程度だ。
「あんた、あっさり断るね」
「ご主人。私は余所者だが、ヒーラーを偽ったら重罪になることはどこでも共通だよ。よく分からない土地で、お尋ね者にはなりたくないのだ」
トリフェインの言葉が通じる地域で、神殿が権威と権力を持っていない場所はなかった。
「まあ、だよな。無理言ったな。ただ、護衛は数だよ。ある程度護衛の数を集めれば、盗賊は襲ってこないのさ。だから、ヒーラーを雇う金で、ディフェンダーやアタッカーを雇った方がいいのさ」
「あんた、このことは秘密にな」
「ああ。今後もこの宿を使わせてもらいたい。一階の飯屋がうまいからな」
「自慢だよ」




