大樹
木が歩いている。
その大きさと枝ぶりから、古代より生きてきたと思われる大樹だった。
それが、根を足のようにして、ゆっくりと歩いている。
大樹が歩くと、その速度に合わせて、木陰で眠っていた獣たちもゆっくりと起き上がり、共に歩き出した。
驚いて一度は飛び出した鳥たちも、すぐに枝葉の中へ戻っていった。
大樹は静かに、ゆっくりと歩き続ける。
よく見ていると、大樹の家族なのか、友人なのかは分からないが、小さな若木も後に続いていた。
多くの生き物が大樹と共に移動する光景を丘の上から見ていると、なぜか懐かしく、そして、うらやましかった。
自分は、あの大樹の下にいた。
トリフェインは、包まれるように暖かな枝の隙間で目を覚ました。
不思議な夢を見たような気がする。
トリフェインは思い出す。
「……全滅したはずだ」
トリフェインは、仲間と森の中で魔物と戦い、そこで全滅した。
穏やかな木漏れ日の中で、トリフェインは自分が死後の世界に来たのだと思っていた。
ここが死後の世界ではないと分かったのは、空腹で腹が鳴ったからだ。
トリフェインは、高台に登って街を探した。
街並みは意外と近くに見えた。
自分の知っている街の景色ではなかったが、そこには馴染みのある人々の生活があった。
言葉も通じ、まずは安心した。
トリフェインは最初に服を買った。
服を買ったのは、自分がひどく痩せていることに驚いたからであり、持っている貨幣がこの街で使えるか確かめるためでもあった。
「とりあえず、買えたか」
この街は旅人が多く、店の者は初めて見る貨幣にも驚かなかった。
だいたいの価値を見積もって、取引をしてくれた。
トリフェインは元々がっちりとした体型で、戦闘では重装備で戦う、ディフェンダーと呼ばれる職だった。
しかし今はやせ細り、目を覚ましたときに身につけていた鎧も、外さなければ歩くことすらできない有様だった。
トリフェインは食事をすると、その食堂の主人に自分の仲間を知らないか尋ねた。
同じように、ここにいるのではないかと思ったからだ。
しかし、食堂の主人は首を振った。
トリフェインは仲間の手がかりすら見つけられなかったが、どこかにいるはずだと信じていた。




