変わる景色
周囲から聞こえる魔物達の声の様子が変わったかと思うと、私の唇から勇者が離れる。
「目を開けられるか?」
勇者に聞かれたけど、怖くて開けられない。私は首を左右にふる。私の目尻を流れる涙を、勇者はペロペロとなめとる。そして起き上がろうとしていたので、私は勇者にしがみついて叫ぶ。
「いや!行かないで」
「大丈夫だ。離さない」
そう言いながら、勇者は私の体も起こしてきた。
「見なくてもいいから、しっかりつかまってな」
勇者が私の体を立たせ、抱きしめる。
魔物達の声が激しくなっている。熱風が強くなり、激しい風が私達の体にふきつけてきた、倒れなかったのは、勇者がしっかり抱きしめてくれているからだ。
キェェェ─────
悲鳴のような、何かの断末魔のような声があちらこちらから聞こえる。何が起きてるの?でも、目を開けるのが怖い…
※※※※※※
長い時間、私達はその場に抱き合っていた。
いつの間にか、魔物達の声がしなくなっている。
「もう大丈夫だから、目を開けな」
勇者の声がする。どうしよう…でも怖い…
「俺を信じて。大丈夫だから」
勇者の優しいく甘い口調。どうしよう…そうだ、片目だけ開けてみよう。そう思い、ゆっくり右目を開けてみた。
すぐに頬に手を当てられ、勇者の顔を向けさせられる。
「もう片方も開けられるか?」
私はゆっくりと左目も開ける。長い事、目を閉じていたから、一瞬ピントが合わないが、徐々に見えてくるのは、私を優しく見つめる勇者の顔。
「勇者様…」
「ロビンだ」
「え?」
「ロ・ビ・ン」
「ロビンって?」
「俺の名だ。恋人同士なのに、勇者様はおかしいだろ?呼べるか?」
え?恋人?待って欲しい!
「さっきまで、あれだけ抱き合ってたのに、急に恥ずかしくなったのか?お前は本当に初で可愛いな」
勇者が愛おしそうに私を見つめながら言う。
「あの!私は」
「待たせた」
私の声に被せるかのように声がした。振り返ると、一角獣がそこにいた。
え?待って!?周囲の景色も変わってない?
魔物の姿はどこにも見えないし、いつの間にか木々も生い茂っている。そして…
「湖?」
炎が出ていた巨大な窪みは湖になっていたのだった。
「一角獣、大丈夫だったか?」
「ああ、わけはない。それよりロゼッタの体、勇者の匂い濃くなっている」
「え?匂い?ずっとくっついていたからかしら…」
「体液交換しないとでない匂いする。人間にはわからない匂い」
「ああ、それは唾液だな。口づけしてたから」
勇者が言う。改めて言われると恥ずかしい。極限状態で、私達どうかしてたんだわ。
「口づけも純潔奪う事になるのか?いつまで純潔でないといけないんだ?」
勇者が一角獣に聞いている。何てこと聞いてんのよ。
「人間達、なぜか俺が純潔好きだと思ってる。純潔だと何か変わるのか?こちらが聞きたい」
「じゃあ、お前は別に純潔だからどうとかはないんだな?」
「ロゼッタの事なら、俺はロゼッタに恋人がいようが子どもがいようが構わない。ただ可愛いから気に入った」
「そうか!」
勇者は嬉しそうな顔をしている。
「俺は疲れたから、少し寝る。お前達は湖で泳いだり水浴びでもしたらいい」
そういうと一角獣は、近くの木陰に行き、足を折り曲げ休みだした。
「湖、見に行こうぜ」
私は勇者に手を引かれ、湖を見に行くのだった。




