恐怖との戦い
一角獣の姿が見えなくなると、勇者が持って来ていたバックの中をごそごそし始め、一枚の大きな布を出して地面に敷いた。
「座ろうぜ」
勇者の声掛けで、私はその場に足を抱えた姿勢で座る。気持ち悪い魔物が近くを歩いているのが見える。何体いるんだろう。すぐ近くをうろうろしている。私は勇者の手を握り、目をつぶり、何も見ないようにした。見ないようにしても、魔物の鳴き声なのか叫び声なのか、気味の悪い声がずっと聞こえる。もうやだ、怖い。涙が出てくる。ダメだ…怖すぎて涙が止まらない。
勇者が、握っていた手を離したかと思うと、その手で私の肩を抱き寄せる。そしてそのまま私を押し倒し、2人で横たわる姿勢になった。勇者は、胸に私を抱きながら言う。
「俺がいる。俺だけを感じていればいい」
目を開けると目の前には勇者の胸があった。私は再び目を閉じる。勇者の心臓の音が聞こえるし、ドクンドクンという動きも感じる。勇者の体温、匂いも感じる。
でも、魔物の声や炎の嫌な匂い、魔物達が近くを通る気配は消える事がない。怖い…
私の体は恐怖で震えてきた。
その時、勇者が体勢を変えて、私の上にのしかかるような格好になったかと思うと口づけをしてきた。深い口づけ…私は怖さを忘れたくて、無我夢中でそれに応える。
口づけに集中したいのに、それでも恐怖は消えない。魔物の声が聞こえるたび、私の体はびくっとしてしまう。
「あっ、あっ、あ」
恐怖で叫び出しそうな声を我慢しようとするけど、それでも声は漏れでてしまう。
「大丈夫だ。俺がいるから。な」
私の頭や頬を擦りながら、子どもに語りかけるかのように勇者が優しく言う。
「ずっといてよ。離れたら嫌。そばにいて。ずっとよ…」
私は涙声で勇者に訴える。そう。ずっといて欲しい。ここはあまりにも怖すぎる。だから私から離れないでほしい。
「ああ、ずっといる。お前といる。一生いてやる。お前も約束しろよ、俺と一生いるって」
「約束するわ…」
とは言ってしまったけど、一生って言った?"一緒"の聞き間違い?こんな場所に一生いるのは嫌よ。"一緒に"の聞き間違いよね。でも、一角獣が帰って来なかったら?
ううん、考えたくない。
私は手を勇者の後頭部に回し、自分から勇者に口づけする。勇者の事が好きなのかわからない。でもこうしていると、怖さのドキドキが、口づけのドキドキに変わるようで、少しは気が紛れる気がする。だから私は勇者のくちびるを味わう事に集中した。




