箝口令
町が騒がしくなる。勇者一行がこの町にやって来たからだ。
一番いい部屋を勇者様達に泊まって頂く予定だったのに、王国からの命令で、宿全てが勇者様達の貸し切りとなった。私達従業員は裏庭に集められ、王国からの通達を旦那様を通して聞かされる。
「というわけで、勇者様達が宿泊されている間に見聞きした勇者様達の情報は口外禁止。家族や友人にも言わないように。もし口外すれば打ち首らしい」
「ひえ~!打ち首なんて、あたしのばあちゃんの頃にあった刑だよ。厳しすぎだね」
食堂担当のローラさんが震えながら呟く。
「前来た勇者様達の時はそんな御触れなんて無かったのにね」
ローラさんの横にいたマサさんがローラさんの言葉に反応して返事をしていた。
勇者様達よりも私はジェイムスさんの事で頭がいっぱいだった。ジェイムスさんは宿屋に隣接する実家に泊まるらしい。まあ、実家に帰省だから、本来はそれが当たり前なんだけど、宿屋の方が会う機会も増えるので、がっかり。せっかく寝起きのジェイムスさんや、普段着のジェイムスさんとかを堪能したかったのに。
「ね~え、勇者様って男前らしいわよ。私夜這いかけちゃおうかしら♡」
ウキウキした声で、ユキが話しかけてくる。
「やめてよ。従業員が夜這いなんて、うちの宿の信用問題にかかわるじゃない。それに、あなた、クリスがいるじゃない」
ユキは私の一つ上で、背は低いけど、グラマラスな体型で宿泊客からセクハラされる事が多く、ケイティさんの取り計らいで、リネン室に異動になったばかりだった。
そして、調理場のクリスと恋人同士なのは職場では有名な話だ。空き時間には常に2人で過ごしているので、てっきりラブラブと思っていた。
「クリスもいいんだけどね~。最近、結婚、結婚言ってくるから困ってるの。私、結婚までにまだ色んな人と付き合いたいのよ。私ってクリスを入れて3人しか付き合った事ないのよ。3人しか知らずに結婚なんて嫌なのよ」
ユキが口を尖らせて言ってくる。一体何の話よ、知らないわ。




