始まり
冒険宿の朝は忙しい。ご飯の支度に洗濯、部屋の掃除、そして新しい冒険者を迎える準備。でも、私は朝が一番好き。新しい1日が始まる雰囲気が好きだ。
「ロゼッタ、その仕事終わったら、私達も食事にしましょ」
宿屋の娘のケイティさんが声を掛けてくる。ケイティさんは、私の5つ上で、とても働き者。私達従業員の事もよく見てくれる。
仕事が一息つくと、ケイティさんや他の従業員と一緒に簡単な食事をとる。食べながら、従業員の一人が思い出したように言う。
「そろそろ来週中にでも勇者様達がこの町にも来られるんじゃないかい?ケイティさん、王国から何か連絡はないんです?」
魔物が増えて来ると、この国では特別に魔力の強い者を勇者として任命し、討伐に派遣している。勇者に拒否権はなく、この度の勇者は確か学生だったと聞いた。
隣の地方の魔物討伐に成功したので、次はこの町に寄って、この地域の森に増えてきた魔物を討伐しに行くらしいともっぱらの噂だ。
「連絡はないけど、あそこの討伐が終わって次にこの町となると、うちの宿が宿泊に使われる可能性が高いわね。いつ来てもいいように一番いい部屋を空けとくようにしなくちゃね」
ケイティさんも食べながら答える。
「そういえば、来週は坊っちゃんが帰ってくるって女将さん言ってましたよ。一番いい部屋は坊っちゃんのためにとっといてって言われましたよ」
別の従業員が言う。坊っちゃんと聞いて、私はドキっとする。坊っちゃんが帰ってくる…坊っちゃんが帰ってくる…坊っちゃんが帰ってくる…頭の中はその言葉でいっぱいになる。
坊っちゃんこと、ジェイムスさんは私の3つ上で、今は20歳。2年前から王国騎士団に入られている。休暇のたびに帰ってくるが、その度に男らしく格好良くなっていて、私の胸は毎回ドキドキしっぱなしだ。ジェイムスさんが格好良すぎるから、他の男の子に声をかけられても、ついジェイムスさんとと比べてしまい、付き合う気になれない。ジェイムスさんくらい格好良かったら恋人くらいいるんだろうな。そう思うと一人落ち込んでしまう。
「ジェイムスなんて、いつでも泊まれるんだから、勇者様優先よ。後で父に役場から何か連絡ないか聞いて見るわね。あら、ロゼッタ、どうしたの?勇者様達が来るかもしれないから緊張してる?大丈夫よ。20年くらい前にもこの宿が勇者一行に利用してもらったことがあるのよ。その時の事を覚えてる従業員も多いから、不安なら聞いたら良いわよ」
ケイティさんが、うつむく私に気づいて話かけてくれる。私は小さくハイとしか答えられなかった。




