対価
「悪い。この女は渡せない」
勇者が即答した。
「こいつだけは家に帰してやりたい。その代わり俺が残る」
信じられない。私を簡単におとりに使うような勇者が、そんなことを言うなんて…すぐに私を渡してもおかしくないと思ったのに…
「君に残られてもねえ。まあ、本当は対価なんていらないんだけどね。人間達が勝手にごちゃごちゃやってただけだし。気が向いた時に暇潰しでしか願い叶えてなかったし。昔を思い出したから言っただけだよ。病気なら、その辺に生えている草花どれでもいいから食べさせたら治るよ。僕らの次元の物はどうもそちらの世界と相性いいみたい。大体の病気治癒はそれで治ってたから」
「助かる。本当に感謝する」
「それはそうと、君もこの辺の物食べといた方がいいんじゃない?ここはいいけど、戻った時しんどいでしょ?そもそも何でそんなに魔力使う事あるの?」
「俺の体の事分かるのか!?」
「うん。何か魔力の流れが今までの人間達と違うから、体見て言っただけだよ」
※※※※※
「へえ、魔物達がねえ。魔物も本来君たちの次元とは別なはずだから、急に増えるという事は蝶番の調子がおかしいんだろうね。ほら、それこそ扉が大きく開いたり小さく開いたりするように、大きく開いた瞬間に沢山出てくるんだろうね」
私達は、近くの岩に座り話す。勇者は、何個も花を手に持ち、次々口に入れている。
「閉じるにはどうしたらいいの?」
「魔物はかなり低次元だからなあ、閉めて欲しいって言っても話は通じないだろうし。君たちの世界でいうところのドアを開けとく時に、ドアが閉まらないようにする錨があるんだ。それを壊すしかないかな」
「どうやって壊すの?」
「君たちの次元じゃ難しいんじゃない?」
「無理なのね…」
「…ん?そこにいるんだろ?こっちに来なよ」
美しい男が、神殿の方を振り返って言う。そこには、あの一角獣がいた。
「君が勝手に人間達連れて来たんだろ?ダメじゃないか」
「ロゼッタは連れてきたけど、その男は勝手についてきた」
「おい!その一角獣喋れんのか?」
「人間の言葉なんて簡単だ。どんな姿になっても喋られる。それより、魔物の世界の錨、俺なら壊せる」
「本当か?」
「ああ。その代わり…」
「おい!この女は対価にさせないぜ!」
「対価はいらない。俺も退屈していた。人間世界をもっと見て回りたかった」
そう言うと、一角獣は私の側に来て私の膝に頭を乗せる。
「ロゼッタ、君と見て回りたい。君も一緒に行こう?」
「おい!その女は何の力もない一般人だ!魔物の近くなんて危なくて行かせられない!お前も行きたくないだろう?」
行きたくない私をつれ回したくせに、どの口がそう言うのか。
「ロゼッタ、俺がいる。安心して」
一角獣が囁く。
「うん、まあ行ったらいいんじゃないの?良かったね久しぶりに可愛い子と過ごせるなんて。安心して。僕らの次元からしたら魔物の世界なんて低次元過ぎるから。大丈夫だよ」
美しい男が苦笑しながら言う。
「ロゼッタが行かないなら行かない。ロゼッタが決めて」
一角獣が私に言う。そんなのズルい。行くしかないじゃない。
「…行くわ」
「俺もだ!」
勇者もすかさず言う。
「…まあ、いいだろう。お前もいたら面白くなるからな。面白い方が退屈しない。2人とも俺の背に乗れ」
「ちょっと待って!一人一人別に乗せられないの?」
私は来た時の事を思いだす。
「お前なあ、一人一人往復して送らせるのか?無理に決まってんだろ、どんな手間だよ。一角獣バカにしてんのか?」
「でも…」
「お前が後ろ乗るか?俺に捕まってろ」
そう言って勇者が先に乗る。私は仕方なく後ろに乗り、勇者にしがみつく。
「これをしていったら?」
美しい男が近くに落ちていた紐のような長い草を勇者に渡す。勇者は受けとると素早く、私と自分とを体で縛り落ちないように固定する。
「お姫さまの病気を直したい。先に王城に行けるか?」
「わかった。しっかり捕まれ」
私達は、不思議な場所を後にして、王城に向かったのだった。




