勇者の真実
一角獣は、私達を乗せたまま、森の奥深くを走って行く。
「いやあ~!変なとこ触らないでよ!」
勇者が背後から私にしがみついているが、おもいっきり胸をつかんでるし、足も絡めてくるし、最悪だ。
「し、しょうがねえだろ!つかまるとこねえんだし!動くなよ。俺が落ちるだろ!」
「痛い!力入れないでえ~!」
「入れてねえ!揺れるからすれて痛いんだろ」
「ちょっと待って、崖!きゃあ~!!!!」
驚く事に、一角獣は崖を飛び越えている。
「もう嫌~!おうちに帰りたい!」
これ以上は心臓がもちそうもない。そう思っていたが、段々と一角獣の走るスピードがゆっくりになり、止まったかと思うと、私達を背中から振り落とし、どこかへ走って消えて行った。
振り落とされてすぐは何が起きたのか分からず、動けずにいたが、勇者に抱かれて横になっていると気づいた。振り落とされた時に勇者が私を庇って抱き抱えてくれたんだろう。見上げると、勇者の顔がすぐ近くにある。勇者も目を開けていた。何だか、勇者の顔の印象が変わって見える。もっとアクが強い感じだったはずなのに、アクが抜けて普通のハンサムな青年に見える。私の視線に気付き、勇者も顔を下に向ける。口づけできそうなくらいの近い顔の距離に私は驚く。
「大丈夫か?」
「え!?あっ、はい!」
「逃げられちまったな」
そう言いながら、勇者は体を起こす。私達が振り落とされた場所は苔のような物が敷き詰められていた。
辺りは花が咲き、神秘的な美しさがある。私は顔から血の気が引く。きっとここは天国だ。私はきっと死んでしまったのかもしれない。
「勇者様がここにいるという事は、勇者様も死んだんだわ…」
「ばーか、何一人で言ってんだ。太陽の位置から考えて、今から帰るのは危険だ。とりあえず、魔物はいそうにないから、野宿して明日帰るぞ」
「勇者様と2人きりなんて嫌です」
「あのなあ、俺がお前に何かしたか?」
この人、何も自覚ないんだ…怖い…。こんなとこまで来たら、生きて帰られるか分からないし、死ぬまえに勇者にひとこと言うくらいいいよね。
「あなた、女性を見れば襲おうとするし、強引に何でも決めるし、いやらしくて気持ち悪い発言ばかりだから嫌なんです!」
勇者は大きなため息をついて、再びその場に寝転がった。
「いやらしいのは仕方ないだろ。あれだけの魔力使ったら性欲高まるんだし。何で誰も知らねえんだよ…性欲高まるから女用意しとけって毎回次の宿泊先行く前に言ってんのに伝達されてねえ事多いし。メンバーなんか、魔力使って高まるのを今だに信じてねえしな。こっちだってハンパない魔力使う反動で性欲も高まって、吐き出さないと頭おかしくなりそうなくらいきついんだよ」
「じゃあ今も…」
私は後退りした。
「いつもは高まるんだけどな、何か今は不思議とそんな気分にならねえよ。一角獣の神気にやられたのかもな。いや、救われたのかもな。毎日毎日魔力使うから、頭の中が女の事でいっぱいになって自分じゃ止められなかったし」
「勇者になる前はどうしてたの?」
「なる前は、魔力使う事なかったしな。学校行って帰って寝るだけだし。俺、学生だったんだよ。親から魔力の反動の事も聞いてたし、抑えが効かなくて犯罪になってもいけないから使わないようにしてた」
「でも性欲だけじゃなくて、性格も問題あるわよ。あなた、失礼な事い言い過ぎよ」
私はいつの間にか勇者に向かって敬語を使うのを止めていたが、勇者は気にとめることもなかった。
「そうは言ってもな、俺は思った事言ってるだけだしな。嘘つかれる方が嫌だし不誠実だろ?言ってやるほうが親切じゃん」
「正直に言われるほうが嫌な事もあるの。あと、一角獣なんて捕まえる必要ある?」
「だって、国王様困ってんだぜ。お姫さまの病気治ったら嬉しいだろ。知ってるか?お妃様、心労でげっそり痩せてんだぜ。あれ見たら何とかしてやりてえって思うよ。あくまで討伐の合間だし、俺たちがいたらお前に危害あるわけないだろ?何であいつら反対するのかわかんねえよ」
わかった…この人、そもそもの価値観が違う人で、性格が悪いとかではないのね。
「一人で決める前に皆で相談したらいいのよ」
「時間の無駄だろ?」
「でも、聖女様なんて優しいから、きっと話聞いてくれるわ」
「聖女?……あれは無理だろ…」
「そんなことないわ!」
「……俺さあ、初めの討伐で聖女を娼婦と間違えたんだよ。聖女があとから合流するのを聞いてたのに忘れてて、会ったことないから顔も知らなくてさ。廊下歩いてるのみて頼んでた娼婦と思って部屋に引っ張り込んだんだ。俺も興奮状態だったし。謝りはしたんだけどなあ…その日から目の敵にされてるよ」
…最悪の関係じゃないの…
「…でも、始まりは、そうでも聖女様に愛を囁くとかしたら関係も変わるんじゃない?あなた、聖女様見てときめかない?あんなに綺麗な人ですもの。好きになるでしょ?恋人になって欲しいって頼んでみたら?」
「…あのさあ、俺、あの聖女好みじゃねえんだよ。好きでもない女に好きですとか言えないわ」
はあ…こりゃダメだわ
「私、この辺り見てくる」
「俺も行く」
「遠くまで行かないから大丈夫よ」
「お前はバカか、何があるか分からないだろう」
そう言って勇者は、私の手を握り、歩き出した。




