42.え、何これ?
第4章の始まりです。
初平4年(193年)7月下旬 冀州 魏郡 鄴
反乱軍の本拠地であった鄴に攻め寄せ、野戦を経て城も攻略し、見事な勝利を収めた。
鄴城には袁隗をはじめ袁基、楊彪、黄琬、荀爽など、反乱軍の首魁がこもっており、それらを一網打尽にできた。
その一方で袁紹や袁術、劉岱、張邈、張超、袁遺、鮑信などは城にこもらず、さっさと逃げだしている。
奴らは今、幽州や青州に逃げこみ、さらなる抵抗の姿勢を見せているという。
しかし連中の軍勢は大きく衰え、すでに盛り返すほどの力は持っていない。
遠からず、奴らの進退はきわまるだろう。
「勝利に乾杯っ!」
「「「かんぱ~い!」」」
そして今、俺たちは鄴城で祝勝会を開いていた。
官軍の将兵の顔は一様に明るく、希望に輝いている。
やがて主将の俺のところに、諸将が集まってきた。
「おめでとうございます、孫将軍。とうとうやりましたな」(公孫瓚)
「いや~、実にめでたい。俺はてっきり、もっと掛かると思っていた。さすがは孫将軍だ」(李傕)
「フハハ、まことに。今回の攻略も鮮やかなものでしたな」(程普)
歴戦の猛者たちが、口々に俺を賞賛してくる。
「ありがとう、みんな。これも貴殿らのおかげだ。特に劉備どのの奇襲は見事だった」
「ケヘヘッ、あんだけお膳立てされて、役に立てないんじゃあ、終わりですよ。こちらこそ良い機会をいただきました」
ここで劉備を褒めたら、殊勝なことを言ってきた。
たしかに進軍経路などを細かく指示した結果だから、あながち間違ってはいない。
しかし劉備が迅速に動いてくれなければ、ああも上手くはいかなかっただろう。
さすが、史実で三国の一角を担った男だけはある。
「そうか。まあ、まだ完全に反乱が収まったわけでもない。今後もよろしく頼むぞ、みんな」
「もちろんだ」
「おう、任せとけ」
「お任せあれ」
こうしてその日はみんなで楽しく酒を飲むことができた。
そして鄴の始末が一段落すると、俺はひと足先に洛陽へと舞いもどる。
代わりに公孫瓚に幽州、李傕に兗州と青州、程普に徐州の制圧を任せてある。
残っているのは小物ばかりだから、彼らだけでもなんとかなるだろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
初平4年(193年)8月 司隷 河南尹 洛陽
「お久しぶりです、周忠さん、朱儁さん」
「うむ、ご苦労だったな、孫堅」
「君の無事な顔を見られて、嬉しいよ」
洛陽へ着くと、さっそく周忠と朱儁のところへあいさつに行った。
今の洛陽、そして漢王朝は、彼らが動かしているようなものだ。
特に周忠などは政務に忙殺されているのか、疲労の色が濃い。
「なんとか敵の主力を打ち破るのには成功しました。後は公孫瓚たちに任せておけば、なんとかなるでしょう。ところで朝廷の建て直しはいかがですか?」
「うむ、ようやく形になってきたところだ。しかし中原を取りもどした分、また仕事が増える。おそらくまた、混乱するであろうな」
どうやら人材登用は進んでいるようだが、まだまだ機能は回復していないようだ。
今までは支配領域が激減していたので、それでも良かったが、中原が戻ってくれば、その手当てに追われる。
漢朝の統治機能の回復は、まだ道半ばだ。
「アハハ、それは仕方ありませんね。ところで、益州の方はいかがですか?」
「相変わらず、勝手なことをしておるぞ。まだ中原の情報が伝わっていないのか、のんきなものだ」
周忠が呆れ顔でぼやく。
中原の反乱に合わせて、益州牧の劉焉は独立を宣言していた。
最初はおとなしく閉じこもっていたのだが、やがて南陽へ手を出すとの情報が入った。
そこで黄忠を南陽へ戻して、襲撃に備えたのだが、やがて5千もの兵で押し寄せてきた。
幸いにも黄忠が上手く対応してくれて、敵を押し返すのには成功している。
しかしそのまま益州へ攻め入るわけにもいかず、今は放置状態なのだった。
「そうですか。なら俺の方で対応しましょうか?」
「孫堅くんが出るのかい?」
朱儁が心配そうに訊ねるが、俺は横に首を振る。
「いえ、南陽に黄忠がいるので、彼に任せます。まあ、1万ほど出せば、問題ないでしょう」
「ほう、ずいぶん信頼しているんだね?」
「ええ、なかなかの武将ですよ。せっかくなので、将軍位を授けて箔をつけましょうか。安南将軍で構いませんか?」
その提案に、すかさず2人はうなずいた。
「ふむ、そうだな。漢の威信を示すには、それぐらいは必要か。それはそうと、孫堅にも働いてもらうぞ。仕事はいくらでもあるんだからな」
「はいはい、それはしょうがないですね」
こうして益州への派兵が決まると、俺も政務に引きずり込まれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
初平4年(193年)12月 司隷 河南尹 洛陽
ハロー、エブリバディ。
孫堅クンだよ。
洛陽に戻って4ヶ月もすると、反乱軍は鎮圧され、首謀者どもは続々と逮捕されていた。
華北では袁紹や袁術たちが捕縛され、益州でも劉焉が捕らえられた。
袁紹たちはしぶとく抵抗したようだが、大軍の前には無力だった。
益州でもそれなりの抵抗はあったものの、黄忠が次々に敵を破り、綿竹に迫った。
ここで劉焉は籠城したのだが、城を囲んでいるうちに内乱が勃発。
内から開け放たれた門から官軍が突入し、あっさりと劉焉はお縄になっている。
劉焉が味方をまとめきれなかった事に加え、官軍の威光が大きく効いたようだ。
衰えたとはいえ、まだまだ漢朝の権威は有効ってことだな。
こうして反乱は鎮圧できたのだが、反逆者の処分がまた問題になった。
本来なら全員、処刑したいところだが、なにしろ袁家をはじめ、有名な連中が多い。
それらを全て殺してしまうと、名家や豪族が大きく動揺するのが予想された。
そこで3年前の反乱にも加担した前科持ちは死刑で、初犯の者は爵位や財産を没収のうえ、僻地に島流しとなった。
つまり袁紹、袁術、劉岱、張邈、張超、袁遺、鮑信、韓馥、孔伷たちは死刑だな。
それと袁隗だけは初犯ながら、今回の反乱を主導したとして、特別に死を命じられた。
おそらく王允をそそのかしたのは、ヤツだからな。
これだけは俺も、強硬に主張してやった。
董卓も少しは気が晴れるだろう。
えっ、曹操はどうしたんだって?
あいつだけは兗州で捕縛してから、ずっと拘禁していた。
そして機会をみては口説いて、とうとう官軍に引きこむことに成功したのだ。
能力は折り紙つきだから、せいぜいこき使ってやろうと考えている。
こうして反乱の始末をつける一方で、俺はのんびりできたかといえばとんでもない。
周忠や朱儁と共に、漢朝の統治体制の修復に走り回らされた。
俺、荊州牧なんだけどなあ。
なんと臨時の太尉に任命されて、軍政全般の建て直しを任されてしまった。
それで周忠と朱儁はどうしてるかって?
周忠は司徒(法制担当)で、朱儁は司空(内政担当)になって、メチャクチャ働いてるよ。
おかげで俺も断りにくいんだよな。
とはいえ、反乱軍の討伐も進み、公孫瓚たちも戻ってくると、さすがに落ちついてきた。
そうなると、全土に平和が取り戻されたことを祝おうと、祝勝会が催される。
それも皇帝の主催でだ。
「皆の働きのおかげで、この中華に平和が戻ってきた。今日はその働きをねぎらうための酒宴だ。遠慮せずに楽しんでくれ」
「「「はは~」」」
こうして劉協陛下のあいさつから、酒宴が始まる。
そして主な武官や文官は陛下のところへあいさつに行き、じきじきにお褒めの言葉をもらうのだ。
もちろん俺も行かねばならない。
肩がこるから嫌なんだけどな~。
「孫堅にございます。陛下におきましては、ご機嫌うるわしく」
「うむ、孫堅よ。こたびの反乱鎮圧も、その方の働きが大きかったと聞いておる。褒美をつかわすので、今後も忠勤にはげめ」
「ありがたき幸せ」
おっ、なんか褒美がもらえるみたい。
たぶん金品かな。
これで嫁さんに、土産でも買っていってやろう。
そんなあいさつの後は、適当に酒を飲みながら、知り合いとおしゃべりをしていた。
天気のいい庭園で宮廷音楽が奏でられ、実にいい雰囲気だ。
それでほろ酔い気分でくつろいでいたら、ふいに頭上に影が差した。
「んあ?」
「な、なんだ、あれは?」
「あれは伝説に聞く、鳳凰ではないか」
「ま、まさか、そんなことが!」
周囲がざわめいている中、なぜか俺の前にでっかい鳥が舞い降りてきた。
それは長い足と長い首を持った、きらびやかな鳥だ。
全身は金色味の掛かった羽に覆われ、その尾羽根は孔雀のように広がって輝いている。
そんな鳥が羽をひろげ、俺を掻き抱くように包みこむ。
さらにそのくちばしで、俺の頭を2回、3回となで回した。
「……え、何これ?」
「ケ~ン」
あまりの出来事に呆然としていると、鳥はキジのような声を上げて舞い上がり、空の彼方に消えていったのだ。
そのまま固まっていたら、朱儁が話しかけてきた。
「そ、孫堅くん。今のはなんだったんだい?」
「……いや、俺にも分かりませんよ。ずいぶんときれいな鳥だったけど」
「うん、そうだね……あ、頭に羽がついているよ」
「あ、どうも」
朱儁が俺の髪についていた羽を取ってくれる。
それはたしかに、さっきの鳥の羽のようだ。
そんなやり取りを見ていた賈詡が、ポツリとつぶやいた。
「あれはひょっとして、瑞兆?」




