41.反乱の終結
初平4年(193年)7月中旬 冀州 魏郡 鄴
「掛かれっ!」
「「「おお~~っ!」」」
鄴周辺に陣取った反乱軍を、我が軍が攻め立てる。
最初は互いに陣地にこもって様子を見ていたが、こちらが野戦の構えを見せると、向こうも出てきた。
なにしろ兵の数で見れば、こちらの15万に対し、敵は20万と優勢なのだ。
そのうえでちょっと挑発してやったら、まんまと引っかかりやがった。
「放てっ!」
「ぎゃあっ」
「ぐおっ、いてえ!」
「ひるむな、撃ち返せ!」
お約束のように矢戦が始まり、双方に損害が発生する。
しかしそれはごく一部で、歩兵たちはひるまずに進軍を続ける。
やがて彼我の距離が十分に縮んだところで、歩兵同士の殴り合いが始まった。
数千もの矛や戟が振り回され、怒号と悲鳴、そして血しぶきが戦場にあふれかえる。
そんな光景を、俺は小高い丘から眺めていた。
「諸将はなかなかに上手くやっているようですね」
「ああ、みんな大したもんだ。適度に手を抜きながら、被害を抑えている」
「フフフ、こちらも負けていられませんね。あ、敵右翼に動きがあるそうです」
「なら、こっちはちょっと退かせるか」
「かしこまりました」
応急で立てた見張り櫓からの報告で、すかさず作戦を立てる。
それをまた旗振りと軍鼓によって伝達すると、少し遅れて反応があった。
簡単な指示ではあるが、その伝達速度の高さによって、敵の攻勢を防ぐのに貢献する。
しかも味方は、十分に余力を残した状態でだ。
そんな消極的な状態で、俺たちはしばし戦闘を繰り返す。
騎兵隊は使っているが、鐙は投入していない。
あれは知られてしまえば、敵にも使われかねないので、ここぞという時に限定していた。
それに平衡錘投石機も、使っていない。
組み立てにけっこうな時間が掛かるので、野戦には向いていないからだ。
代わりに人力の小型投石機を持ちこんでいたが、敵も似たような武器を使っており、決定打にはならない。
おかげで毎日、朝から晩まで歩兵の殴り合いや、騎兵の殴り込みの繰り返しだ。
さすがに敵も慎重になっているのか、なかなか決定的な場面には至らない。
しかしそんな戦を5日ほど続けていたら、ようやく待望の機会が訪れた。
「敵の後方に混乱が見られます!」
「とうとう来たか。ちょっと見てくる」
「お気をつけて」
なにやら敵の右翼後方で、混乱が発生しているというので、俺も見張り櫓に昇ってみた。
そして遠くを見渡してみれば、それらしき集団が暴れまわっているのが見えた。
「やっぱりな。劉備たちが奇襲に成功したようだ」
「さすがですね」
それは公孫瓚と一緒に行動しているはずの、劉備たちだった。
公孫瓚は今、并州から冀州にちょっかいを掛けることで、反乱軍を牽制している。
しかし俺はそこから劉備たちの兵を引き抜き、鄴の北方から攻めさせたのだ。
これも伝書バトを駆使して、すばやい連絡ができる我が軍の強みだった。
「周瑜、全軍に指示を出せ。この機に乗じて、総攻撃を仕掛けるぞ」
「了解です」
待ってましたとばかりに、軍鼓と旗振りによる指示が出される。
それはあらかじめ計画していた作戦で、劉備たちの奇襲を織りこんでいた。
その作戦に従って、全軍が一丸となって動きだした。
これが上手くいけば、決定的な戦果が得られるはずだ。
そのまましばし状況を眺めていると、やがて敵軍が崩れはじめ、敗走が始まった。
「どうやら勝ったようだな」
「ええ、おめでとうございます、孫堅さま」
「いや、これも周瑜や賈詡のおかげだ。今回は劉備にも助けられたしな」
「フフフ、それもこれも、孫堅さまあっての成果ですよ」
「ええ、孫堅さまの下は、実に働きやすいですからね」
「そうか、それは嬉しいな。いずれにしろ、まだ野戦に勝っただけだ。本番はこれからだぞ」
「「はい」」
こうして鄴郊外での野戦を制し、俺たちはまた勝利に近づいた。
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初平4年(193年)7月下旬 冀州 魏郡 鄴
ハロー、エブリバディ。
孫堅クンだよ。
鄴での野戦に勝利すると、敵は城に立て籠もった。
こうなればもう、例の兵器の出番である。
「放てっ!」
指揮官の号令と同時に、巨石が宙に舞う。
それは400メートルほど先の壁を飛び越えて、城内に落下した。
かすかに物の壊れる音と、悲鳴が聞こえてくる。
今の俺たちは、敵城を平衡錘投石機の射程に収めた位置に、陣をはっている。
そして敵を威嚇しながら、投石機を組み立てると、いよいよ攻略に取り掛かったのだ。
その成果を見た諸将が、それぞれの感想をもらす。
「ほほう、あれが噂の新兵器か。なるほど、従来では考えられん破壊力じゃの」
「うむ、あの威力の前では、籠城も大して意味を持たんだろうな」
「おお、恐ろしい。自分が打ちこまれる側でなくて、本当に良かったわい」
今まで新兵器をじかに見ていなかった程普たちが、主に騒いでいる。
董卓閥の連中はすでに何回か見ているので、それほどでもなかった。
そんな様子を見ながら、周瑜が話しかけてくる。
「相変わらず見事なものですね。はたして賊軍は、どこまで抵抗できることやら」
「ん~……まあ、しばらくは耐えるんじゃないか?」
「どうでしょうか? 案外あっさりと、降伏してくるかもしれませんよ」
「まあ、それはあり得るな」
すると近くで話を聞いていた劉備が、無邪気に声を掛けてきた。
「うひゃ~、凄いですね、孫堅さま。噂以上ですよ。あんな兵器、どうやって作ったんすか?」
「ん? まあ、俺の部下には優秀なヤツが多いからな」
「なるほど~……やっぱり孫堅さまには、逆らわない方がよさそうだ。これからもよろしくお願いしやすぜ」
「ああ、劉備の功績も大きかったからな。こちらこそ、よろしく頼むよ」
「そいつは嬉しいですね」
相変わらず憎めない笑顔で、劉備が媚を売ってくる。
三国志のヒーローに、こうも下手に出られると、ちょっと怖いぐらいだ。
しかし現実にこの世界では、俺は官軍のトップに君臨しているのだから、誰も不思議に思わないだろう。
そんなやり取りをしているうちに、やがて敵城の壁が大きく崩れはじめた。
そして突入するに十分な侵入路ができると、俺は指示を出す。
「投石はやめて、突入だ。なるべく逃亡者は逃がすなよ」
「「ははっ」」
すぐに伝令が走り、味方の兵が動きだす。
やがて一部の部隊が、侵入路に向けて動きはじめた。
「結局、降伏はしてきませんでしたね」
「そうだな。どうせ城内は大混乱で、降伏する暇もなかったんじゃないか」
「でしょうね。いずれにしろこれで、反乱も終結になりましょうか?」
「そうだな。まだ小物はあちこちにいるが、もうまとまった動きはできないだろう。いずれ沈静化するさ」
「……そうするともう、武功を立てる機会はなくなりますね。ちょっと物足りなく思うのは、私だけでしょうか?」
ちょっと残念そうな顔の周瑜に、俺は笑いかける。
「ハハハ、周瑜は若いんだ。まだまだ武功を立てる機会など、いくらでもあるさ」
「フフフ、そうかもしれませんね。しかし孫堅さまはそれでいいのですか?」
「当たり前だ。俺はとっとと隠居して、呉に帰るのが夢なんだよ。後のことは、周瑜や孫策に任せるさ」
「アハハ、孫堅さまらしいお話ですが、周りが許してくれましょうか?」
「さあな。なんとかなるだろう」
それは掛け値なしの本音だったが、そう上手くいかないだろうとも思っていた。




