17.反董卓連合の蜂起
中平6年(189年)10月 荊州 長沙郡 臨湘
「いや、逆だ。やはり俺は董卓に味方する」
それを聞いた一部の配下は一瞬、息を呑み、すぐに抗議してきた。
「なぜですか? 父上! 董卓のような悪漢に与しては、父上も汚名をこうむりますよ!」(孫策)
「そうですよ、孫堅さま。それに名士を敵に回すと、後が怖いですし」(呉景)
「たしかに名士を敵に回すのは、得策とは思えませんな」(張紘)
「私も反対です。それぐらいなら、何もしない方がいいのでは?」(劉先)
しかし他の武官たちは、違う反応を見せる。
「しかし現状で権力を握っているのは、董卓ですからな」(程普)
「そうだな。それに同じ武人としては、応援してやりたくもある」(黄蓋)
「ですな。あまり名士どもにでかい顔をされるのも、おもしろくない」(韓当)
「儂も同感ですな」(朱治)
「まあ、兄さんがそうしたいってんなら、いいんじゃない」(孫静)
「そうですね」(徐琨)
腕っぷしに自信がある者ほど、こだわりは無いようだ。
そんな中、周瑜だけは口をつぐんでいたので、あえて彼に訊ねてみる。
「周瑜はどう思ってるんだ?」
「……そうですね。どちらかといえば、孫堅さまに賛成です」
「なんでだよ?! 周瑜」
即座に反発する孫策に、周瑜は慎重に答える。
「まず現状で権力を握っているのは、董卓側だということ。そして彼は、特に大きな失敗をしているわけではありません。しかし孫堅さまが言うように、関東の名士や豪族連中は黙っていないでしょう。下手をすると、大挙して反乱する可能性が高い」
「えっ、それは義挙なんじゃないか?」
「いや、天子を押さえてるのは董卓なんだ。それに刃向かうのは反乱、つまり逆賊さ」
「ええ、そうなのか?……」
周瑜の言葉に納得できない孫策が、首をひねる。
しかし俺も周瑜を肯定した。
「さすがは周瑜だ。俺も下手をすると、大きな反乱が起こると考えている。ひょっとすると、董卓は困ったことになるかもしれんな。しかしそこで俺たちが加勢してやれば、大きな恩を売ることができるだろう?」
「フフ、さすがは孫堅さま。そのとおりです。上手く董卓に恩をきせれば、より大きな力を得ることも可能でしょう」
「フハハ、そういうことだ」
俺と周瑜が澄ました顔で笑い合うと、それを見た孫策や呉景がドン引きしていた。
内心では俺も、前世知識を持たない周瑜が、同じ考えにたどり着いていることを、空恐ろしく思わないでもない。
しかし味方としては、頼もしい限りだ。
「まあ、本当にそうなるかは、まだ分からん。しかし実際に情勢は動きつつあるのだから、手は打っておくべきだ。すでに董卓には手紙を送って、誼を通じてある」
「さすがですね、孫堅さま」
「ハハ、元々、知らん仲ではないからな」
実際に董卓が司空になった時点で、俺は手紙を送ってあった。
内容としては
”昔、肩を並べて戦った者として応援してます。何か役に立てることがあれば、言ってくださいね”
みたいなことを書いておいた。
そしたら形式的な返事しか返ってこなかったが、まあ、現状では向こうも信用できないだろう。
今後の行動で示すしかない。
「いずれにしろ、情報収集と兵を鍛えることを怠らないよう、よろしく頼むぞ」
「「「はっ」」」
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初平元年(190年)1月 荊州 長沙郡 臨湘
ハッピーニューイヤー、エブリバディ。
孫堅クンだよ。
皇帝の代替わりで動揺していた中原に、さらなる激震が走った。
袁紹、王匡、韓馥、孔伷、劉岱、張邈、張超、橋瑁、袁遺、鮑信、曹操、袁術という不満分子たちが、各地で反乱を起こしたのだ。
これは最初、張邈と張超が陳留郡の酸棗に兵を集結させ、周辺の群雄がそれに呼応したものだった。
しかし橋瑁って野郎が、”董卓を討て”という3公の指示を偽造して檄を飛ばしたため、豫州、冀州、荊州、司隷にまで飛び火した。
さらに橋瑁らは、渤海郡の太守であった袁紹を盟主にかつぎ出し、反董卓連合を結成する。
なんで袁紹が盟主かっていうと、彼の知名度が高いからだ。
ヤツは汝南袁家の直系で、しかもついこの間まで、大将軍 何進の配下として働いていた。
汝南袁家といえば、4世代に渡って3公を輩出(四世三公という)するほどの、超名門である。
そんなヤツが司隷校尉まで務めてたんだから、頼りにもされるだろう。
もっとも、同じ袁家出身の袁術は、袁紹が妾腹の出だといって馬鹿にしてるので、面白くないだろうがな。
それはさておき、これにブチ切れたのが董卓だ。
そもそも董卓は、実権を握ったにもかかわらず、名士にはかなり気を遣っていた。
袁家を始めとする名士層に敬意を払い、名のある者たちを重職に就け、人事を刷新しているのだ。
さらに周毖や許靖らの推薦を受けて、韓馥、孔伷、劉岱、張邈などを郡太守や刺史に任命した。
袁紹なんか、洛陽を逃げ出したにもかかわらず渤海太守になってるし、袁術も後将軍に任命されている。
他にも曹操だって、味方にならないかと誘われていた。
しかし彼らはそんなことを、これっぽっちも恩に感じることはなく、逆に反乱の兵を起こしたのだ。
そりゃあ、董卓でなくたって激怒するだろう。
史実ではこの後、周毖や袁一族が処刑されているが、彼らの自業自得だと思うのは俺だけだろうか。
彼らが推薦した者が叛旗をひるがえしたのだから、その責任を問われて当然だ。
俺から見れば関東の名士連中など、董卓が実権を握ったことに我慢できない、駄々っ子のようなものだ。
そしてこれが董卓を破滅的な行動に追いこみ、漢王朝の崩壊を加速させてしまう。
たぶん董卓は、むしろ漢王朝を存続させようとしていたのに。
(もちろんその中で美味い汁を吸ったのかもしれないが)
しかし袁紹たちは、かろうじて保たれていた漢王朝の威信、統治機構に真っ向からケンカを売った。
これによって漢朝というくびきは解き放たれ、群雄が割拠する乱世へとつながっていく。
後世では董卓ばかりが悪く言われるが、反董卓連合の奴らだってひどいものだ。
そして俺は連合結成の報を聞くと、ただちに配下を招集した。
「というわけで、中原では多くの名士が反董卓の旗を掲げ、集結する動きを見せている」
「うわぁ、孫堅さまの言うとおりになったぁ」
「さすがは兄さん」
「フハハハハッ、おもしろくなってきたのう」
そんな声を聞きながら、俺は今後の方針を示す。
「まあ、決して好ましいことではないが、予想どおりにはなった。そしてここで董卓に味方をすれば、大きな恩が売れるだろう」
「えっ、でも3公から指示が出てるんですよね? 董卓を討てっていう」
そう言ったのは孫策だ。
相変わらず単純なヤツである。
すると周瑜が笑いながら、それを否定した。
「アハハ、この状況でそんなものが出るとは思えないよ。まず間違いなく、偽造されたものさ」
「そのとおりだ。今の洛陽に、そんな骨のあるヤツはいない。檄文を出したのは橋瑁みたいだから、その辺が偽造したんだろうな」
「ええっ、そうなの?」
俺にもダメ出しされた孫策が混乱しているが、普通はそんなものだろう。
前世知識も無しに、洞察できる周瑜こそが異常なのだ。
ここで俺は、劉先に視線を向けた。
「ところで劉先。漢寿に動きはあるか?」
「あ、はい。荊州刺史の王叡も、連合に同調する動きを見せているそうです。しかしおかしなことに、武陵太守の曹寅を先に討つなどと、言っているようなのですが……」
武陵郡の漢寿は荊州の都であり、刺史の王叡はそこにいた。
そして王叡が曹寅を討とうとするのもまた、史実どおりの流れだ。
「たぶん王叡は董卓の討伐には、あまり興味がないんだ。おおかた、自分の権力を強化する算段でもしているんだろうよ」
「ああ、なるほど。それはあり得ますね」
「いずれにしろ王叡は、相国閣下に逆らおうとしているわけだ。だから王叡を攻めるぞ」
「えっ、本気ですか?」
劉先だけでなく、孫策や呉景も疑問の声を上げる。
わりと常識的な彼らには展開が急過ぎて、話についていけないのだろう。
しかし俺は、断固として指示を下した。
「今までも言ってきたように、ボヤボヤしていると、時流に乗り遅れるぞ。程普、黄蓋。ただちに軍を編成してくれ。漢寿へ行くぞ」
「フハハッ、了解しました」
「了解です。腕が鳴りますなあ」
彼らだけでなく、他の武官もやる気満々だ。
いよいよ俺の出番だ。
たっぷりと暴れてやろうじゃないか。
いよいよ孫堅が歴史を変えるため、大きく動きだします。
ちなみに史実だと、”辺章と韓遂の乱”討伐時に対立してるので、味方する選択肢はなかったでしょう。
当然、本作でそのフラグは除去済みです。(笑)




