4-6
サンダーバードが2人に向かって突進してきた。飛んで躱すと、今度は壁に激突した。先ほどから自傷覚悟の派手な特攻である。
壁にぶつかった瞬間を狙って、フィーロはひゅんと剣を回転させ、上から下に一閃。
鋭い切先は、サンダーバードの尾を切り落とした。
(サンダーバードは羽と尾に蓄電する。このまま両翼を切り落とし、心臓を貫く!)
再び剣を振り上げた。次は右側の翼だ。
ケエエン、とサンダーバードが激しく鳴いた。すると地面に落ちた尾から、ばちばちと電流が迸った。
「っ!」
咄嗟に剣を宙に投げる。尾から溢れた強力な雷が、放り投げた剣へと飛来した。
騎士団の剣は耐魔の力を備えた特注品だ。雷の直撃を受けても剣は黒焦げになることはなく、銀の刀身のまま地面にからんと落ちた。
フィーロが地を蹴って剣を拾いに行こうとするが、サンダーバードの追撃を受けて阻まれた。
雷を横っ飛びに躱しながら、フィーロはこのあとのことを考える。
(さて、どうする。鎧にも雷への耐性はあるが、あれだけ強力な雷となれば、5,6発受けるのが限度だろう)
イェルがいれば防御の魔術を張って、多少無茶な接近戦もできたのだが。
ここでふと、葉太郎のギフテッドを思い出す。
ラタの森では妹にバフを盛りに盛りまくり、ウサギやスライムを吹っ飛ばしていた。さすがにサンダーバードのような強敵を「ドゥン」と吹っ飛ばすのは無理だろうが、肉体強化くらいは自分にかけられるかもしれない。
「ヨータロー、俺に肉体強化の術を」
かけることはできるだろうか、と聞こうとしたところで、フィーロは停止する。
サンダーバードに向かって、大きく両手を広げた葉太郎を目撃したのだ。
さながら、犬を抱擁するべく両手を広げて待つ飼い主のように。
「よしこーい!」
「ばっ……」
飼い主に突撃する犬、ではなく雷を纏ったサンダーバードが、ウェルカム体勢の葉太郎に突っ込んだ!
炸裂する電撃と衝撃。
葉太郎は無謀にもそれを抑え込もうとして、耐えきれずに盛大に吹っ飛んだ。
フィーロは慌てて壁にめり込んだ葉太郎に走り寄った。
「おい!ヨータロー!ヨータロー!」
「ぐっ……、だい、じょうぶだ」
あらかじめ強化の魔術を仕込んでいたのだろう。土埃ですごいことになっているが、電撃で心臓が止まった様子はなく、外傷もほとんどない。
「ヨータロー! さすがにサンダーバードを『ドゥン!』とするのは無理があるぞ」
「分かっている、あれを『ドゥン!』できるとは思っていなかった。予定より吹っ飛ばされたが、まあいい。一度食らえばこちらのものだ」
なにが、と問おうとして、フィーロは言葉を失った。
葉太郎の髪の毛が逆立ち、全身がパチリパチリと音を立てる。金色の光を纏うその姿は、目の前に立ちはだかる魔物にそっくりだった。
ギフテッド、と呆然と呟く。目の前の光景がまだ信じられなかった。
(この男、魔物の攻撃も自分のものにできるのか……!?)
雷を纏った葉太郎が吼える。
「これで終わりだ!」
地面を蹴る。狙うは空中のサンダーバード。
葉太郎は勢いのままに加速し、一筋の雷となり、そして。
サンダーバードがひょいと身を捻った。
一筋の雷(葉太郎)は、アクセル全開で天井に突っ込む!
「ぐあぼ」
悲鳴は途中で岩壁に飲み込まれ、葉太郎は天井のインテリアとなった。
一瞬の出来事だった。フィーロは一部始終をただ見ていることしかできなかった。
(わずかの間に戦力が半減してしまった)
どうしようこれから、と一瞬本気で途方に暮れてしまう。
天井から生えた葉太郎の尻と足が雷でぴかぴかと光るのを、サンダーバードと一緒に茫然と眺めた。
そしてはっと気づく。そう、なぜかサンダーバードも攻撃をやめて地面に降り立ち、葉太郎を見ているのだ。
もしや、雷をまとう葉太郎を仲間だと勘違いしているのか。あるいは同じ雷を扱う魔物を警戒しているのか。
「ヨータロー!そのまま光っていろ!」
フィーロの言葉に呼応し、葉太郎の下半身がばちばちと電流を帯びる。
予期せぬ稲光を見つめる魔物の視界からは、完全にフィーロの存在が消えていた。
フィーロは地面を滑るように移動し、先ほど落とした剣を拾った。そのままサンダーバードの懐に飛び込み、その心臓めがけて剣を突き立てる。
ケエエエエン! と激しい悲鳴をあげるサンダーバード。
絶命まであとわずかだろう。サンダーバードはひときわけたたましく鳴き、その輪郭が見えなくなるほどのまばゆい電撃に包まれた。
死ぬ間際、敵に最後の一撃を浴びせようとしているのだ。
「う お ら ああ!」
葉太郎が無理やり天井から頭を引っこ抜いた。剥がれた岩壁と共に、そのままサンダーバードの頭に激突する。地面にめり込んだサンダーバードは意識を失い──、雷は放出されることなく収縮し、後には死体だけが残った。
戦闘終了だ。フィーロは剣を振って血を払い息をつく。
「助かった」
「お互い様だ」
フィーロは雷を発しなくなったサンダーバードの死体を見下ろし「やはりおかしい」と呟いた。
「サンダーバードは本来、鉱山の中に棲むような生物ではない。何度も攻撃を失敗して壁や床に体当たりをしていただろう。普通こんな狭い空間で戦うことがないからだ。おそらくこのサンダーバードは、何者かに召喚されたんだ」
葉太郎がへえ、と意外そうに声を上げた。
「魔物を召喚なんてできるのか?」
「何言ってるんだ。勇者だって召喚できるんだぞ」
指を差されてそう返されては、納得するしかない。
「召喚には2パターンある。術者がその場で召喚する方法と、魔方陣等を用いて時間差で召喚する方法だ。ここで重要になるのは術者との距離だ。使役する魔物と術者の距離が離れるほど、魔術が効きづらくなる」
サンダーバードは野生に帰り、自分の意志で暴れまわっていた。だとすると、魔方陣で召喚された可能性が高い。
「誰かがこの廃坑の奥に近づいたら、召喚の魔方陣が発動するように仕掛けられていたと考えるのが自然だろうな」
おそらくその人間は、この奥に誰も近づけたくなかったのだろう。
そして葉太郎は奥に何があるのか、その答えがおおよそ予想できている。
2人はサンダーバードが飛び出してきた坑道を睨む。
暗闇に包まれた道の先は、さっきよりずっと不穏な気配を醸し出していた。
2人は奥に向かって慎重に歩き出した。
2人分の足音だけがやけに大きく響く。ぴりぴりと神経を研ぎ澄ませて歩くと、終着点は意外と近かった。
再びの広い空間。フィーロの灯りが周囲を照らす。
そこにあったものを見て、2人は絶句した。
「……!」
「これは……」
まず目についたのは、ぎらぎらと光る大量の金塊。
次に、布がかぶせられた巨大な木箱。
フィーロが近寄って布をめくる。
仕切りにそって並べられた剣がずらりと目に入った。
他にも様々な物資が積んである。これが何を意味するのか、何のためのものか、フィーロにはすぐに理解できた。少し震える声で、その正解を紡ぐ。
「……戦争……」
葉太郎は無言で物資を見上げた。アイヴィーが言っていたとおり、ウィルドン山には他国と戦争をするための用意が隠されていた。
ならば、ここに宰相が残した証跡があるかもしれない。葉太郎はあたりを慎重に見渡す。
木箱の布を1つずつめくり、武器を引っ張り出して木箱の底まで見ていく。
だが、なにも見当たらない。
「ヨータロー、何をしている」
「ここに来た奴の手掛かりがないか探している」
なぜ、と疑問に思ったフィーロだが、明日ひまりがこの廃坑に来るからだろう、と勝手に納得した。
そして一緒に捜索を始める。フィーロはグラース国の騎士団だ。戦争に関わるものが発見された以上、放ってはおけない。
物資の中身、地面、壁。目をこらし、手にとりながら探していたときだった。
こつ、と葉太郎の足が何かを蹴った。きらりと光った何かは石ではなかった。
葉太郎はそれを拾う。
「なんだ、これは……」
それは、手の平サイズの八面体の透明な結晶だった。




