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伸びきった草を踏みつけ、でこぼこの地面を押し潰しながら獣道を歩く。
ときおり森の中にぽっかりと空いた坑道を通るたび、周囲の空気が重くなっていく。中心部に近づくにつれ、魔素が充満してきているのだ。
「鉱山というか、山だな。植物がずいぶんと多い」
「植物は根付いてしまえばすぐに広がるからな。特にグラース国は緑の多い国だ。岩だけの山のほうが珍しい」
のんびりと世間話をしているように見えるが、彼らには定期的に魔物が飛びかかっていた。
もぐらのような魔物、大きな花の形をした魔物、人魂にも似た魔物。
しかしそのどれもが大した強さではないため、日常会話と共に一瞬で屠られている。
2人はどんどん魔物を倒して先に進み、ついに3つめの坑道に入る。馬用の灯りで地面を照らしたフィーロが眉をひそめた。
「フィーロ、どうした」
「少し妙だ」
フィーロがしゃがみこんだ。白い指先で地面に触れて首を傾げる。
「数年人の出入りがないにしては、地面が綺麗すぎるというか……」
葉太郎も目をこらして地面を見つめる。
「人が出入りしているということか? 足跡は見当たらないが」
「ああ。足跡はない。それに、長年放置されれば積もるはずの埃も枯葉も、だ」
まるで人が通った痕跡を隠すために、地面を綺麗に整備したかのような不自然さがあるのだ。
魔物の討伐のため各地で遠征を重ねてきたフィーロは、廃墟や廃鉱山もよく知っている。
その経験が告げているのだ。この鉱山には何かある、と。
「とりあえず奥まで行ってみるか」
開けた空間の先に続く一本道を、2人は灯をともしたまま少しずつ歩いていく。
警戒は怠らぬまま、フィーロは口を開いた。
「そういえばヨータローは、ギフテッドでどんな魔術が使えるようになったんだ」
この先で戦闘が待ち受けているかもしれない。ならば葉太郎の魔術は把握しておきたいという考えからの言葉だった。
フィーロは自身が見た魔術は城に報告しているし、ヒマリに教えた魔術は宰相たちが把握している。なので葉太郎の魔術については網羅しているつもりだが、彼らの目が届かないところで魔術を編み出している可能性もある。
葉太郎は指折り数えながら答えていく。
「虫除け、魔物除け、肉体の強化、風、火、対ゴースト用の浄化の光……、こんなところか」
「本当に属性関係なく覚えられるんだな」
坑道を抜けると、今までとは違い広い空間につながっていた。
削り取られた岩壁には資源は何も残っていない。鍛冶師の奥さんが言っていたように、鉱石は採りつくしてしまったのだろう。
奥にはまだ道が続いている。朝までに街に戻ると考えると、進めるのはあともう少しだろうか。
そんなことを考えながら葉太郎は話し続ける。
「そうだな。……ああそれと、ひまりが」
その時だった。
奥に続く通路の先。見えない闇の中から殺気が噴き出した。
「「!」」
2人は同時に飛び退る。
フィーロは剣の柄に手をかけ、葉太郎は拳を握って腰を落とした。
2人は通路の奥を睨みつける。殺気はみるみると膨れ上がり、葉太郎たちのいる空間に向かって飛び出してきた。
フィーロの灯りを頼りにしていた薄暗い空間が、突然ぱっと明るくなる。2人はそのまぶしさに目を細めた。
突如現れた殺気の塊はまばゆい光を、いや、電撃をその身に纏って現れた。
光の線がばちばちと何もない空間を走る。その魔物は鋭い嘴を広げて猛々しく鳴き、大きくその翼を広げた。
フィーロが魔物の名を叫ぶ。
「サンダーバードか!」
サンダーバードは一筋の稲妻となって岩壁を駆け、地面に急降下した。鋭い嘴の切っ先が狙うのは、突然この坑道に足を踏み入れた人間たちだ。
「跳べ!」
フィーロの鋭い声と共に、2人は左右に分かれて飛んだ。
サンダーバードは地面に勢いよく激突し、バリバリと電撃を放つ。
「あの鳥は強いのか?」
「ああ。光の速度で敵に迫り、怒りの雷で焼き尽くす。滅多に出会わない大物だ」
実際には2人の目で追える速度だったので、光の速度は誇張した表現だろう。
それにしたって速い。あんなスピードで迫られたらひまりは落ち着いて魔術も使えないだろう。
加えて見た目も激しいし、嘴も恐ろしく尖っている。
葉太郎の「ひまりジャッジ」がすばやく発動。ビジュアル・戦闘方法共に「×」が付く。
「ここで倒しておくぞ。あんな尖ったクチバシで、ひまりが先端恐怖症になったらいかん」
「そうだな、倒しておくか」
真夜中の廃坑。敵は夜空さえ照らしそうな眩い雷鳥。
ケエエン、と激しい鳴き声とともに戦闘が開始した。




