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数日後、カオスは皇国とブラッドの制圧に成功し、新たにカオス領となった土地の人々は大きく三つに分けられた。一つは支配を受け入れカオスに従う者、一つは最後まで抗い戦死した者、そしてもう一つは死線を潜り抜けパールへ逃れた者だ。
これで世界は分かりやすく二分された。カオスとパール、各代表同士の交渉は既に決裂し、女王の指令一つで大規模な戦闘に突入するだろう。
その日、僕がリヴィの元へ行くと、彼女は不安を隠そうとせず表情に出したまま、赤い液体の入った装置を手に口を開いた。
「強行することにしたよ。隙を見てこれをパールの鉱脈に打ち込む」
「他の手筈は……」
「全て整った。あとは実行するだけだ」
彼女は装置を僕に手渡し、そして続けて言った。
「これを使う役目は君に託したいと思ってる。私たちが開いた道を、君はただ進んでほしい」
「分かりました。引き受けます」
「悪いね、重大な責任が伴う役目で」
「いえ、僕はあまり人と戦闘するのが得意ではありませんから。これくらいの責任は負わせてください」
「ありがとう。それじゃあ、具体的な話をしようか」
女王はそう言い机の上に地図を広げた。僕たちはパールの鉱脈の位置と、そこへ辿り着くまでの道を確認していく。
「作戦が開始されたら、猶予はあまり無いものと考えてほしい。具体的には半日くらいかな。それまでには鉱脈を潰したい」
「半日……何の時間ですか?」
「装置によって石の効力が失われるのが三時間くらいなんだ。だから、作戦開始の凡そ三時間後に他の鉱脈を潰すよう伝達してある。その前後の六時間がリミットってことだね」
「本当に大役ですね……。強行する以外にないのでしょうか」
「パールへの侵攻は何度も試みたけど、全て上手くいかなかったよ。硬すぎるんだ。あの勢力は」
「じゃあ、潜入は?僕なら王とも面識がありますし、迎え入れてくれるかもしれません」
「それも考えたけど、今はもう遅い。皇国のシルヴィアがパールに逃れていてね、彼女の力を使われたらすぐにばれてしまう」
「そうですか……。やるしかないんですね」
「うん。もう数日後には指示を出そうと思ってる。準備しておいて」
女王との会話の後、僕はミラに頼んで現時点での各勢力構成員と、戦死者についての資料を見せてもらった。
新たにカオス側に加わったメンバーとして、皇国騎士からは第三席と第十席、ブラッドからは赤髪の名前が記載されている。パールへ逃れた人物としては皇国騎士の第二席、第五席、第十二席、ブラッドのアヤとフィオ、そして女王の言っていた通りシルヴィアの名前もある。
戦死者のリストは膨大だったが、見る恐怖を抑えて上から順に目を通していった。
皇国からはギルバード統括を筆頭に皇国騎士の残りの席、第六席、第七席、第八席、第九席、第十一席は全てここに記載があり、それ以外にも知っている名前を幾つか見つけた。皇国のレナ、ジーク、元ブラッド現カオスであったラビ、ナギサ、ナナミ。
自分の加担する計画の犠牲者。あまりにも重い代償に手の震えが止まらない。僕はもう引き返せないところにいる。みんなが笑顔で、みんなが幸せに、そんな未来はもう来ない。
「大丈夫ですか?」
震える手をミラに握られていた。僕は一度深く呼吸をして頷く。
「はい。女王が指令を出すまでに、しっかり覚悟を決めておきます。屍を踏みつけて、進む覚悟を」




