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この世界では、彼女の人生は彼女のものです。  作者: アーエル


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8/11

8.



昼には、掃除の作業があった。

床を拭き、洗濯物を畳み、食器を片づける。

彼女たちは当然のように誰かへ命じようとしたが、命じられる相手などどこにもいない。


「誰か、これを片づけなさい」


「この世界では、自分で使ったものは自分で片づけます」


返された言葉に、彼女たちは何も言えなかった。

かつて凪沙に「この世界では、身分ある方のお言葉に逆らうものではありませんわ」と笑った自分たち。

今度は誰にも命令できない場所で、汚れた布を抱えて立ち尽くしていた。


さらに残酷だったのは、言葉の授業だった。

彼女たちは発音を間違えるたび、単語の意味を取り違えるたびに顔を赤くした。

笑われると思って身構えたが、教師は笑わず、ただ何度も練習させた。


「知らないことは、覚えればいいだけです。知らない人を笑う理由にはなりません」


その当然の言葉は、彼女たちの胸を抉った。

凪沙は知らなかっただけだった。

教えられれば覚えたし、間違えても直そうと努力をしていた。

それなのに自分たちは、その努力を見もせず。

ただ『異界人だから』との理由だけで嘲笑った。


夜、令嬢たちは薄い布団の中で互いのすすり泣きを聞いた。

誰も慰めなかった。

慰める資格がないと、全員が分かっていたからだ。


「凪沙様」


誰かが、震える声でその名を呼んだ。


「申し訳ありませんでした。あなたが知らないからと見下して、笑って、傷つけました」


「どうか、謝らせてください。どうか、一度だけでも」


けれど、その声もまた届かなかった。

凪沙は彼女たちの涙を知らない。

彼女たちがようやく自分の醜さを理解したことも知らない。

知る必要など、どこにもない。


翌朝になれば、また別のブーメランが返ってくる。

髪型を笑えば、誰にも梳(す)かれず乱れた髪のまま並ばされる。

作法を笑えば、箸もペンもまともに扱えずに赤面する。

身分を誇示(こじ)すれば、名前ではなく番号で呼ばれる。

扇で隠していた嘲笑は、隠すもののない素顔へ、そのまま突き刺さった。



貴族の子息たちは、さらに惨めだった。

彼らは異界の娘を好きにできると思っていた口で、今度は自分たちの意思がまるで通らないことに怒り狂った。

力で押し通そうとした者は拘束され、脅し文句を並べた者は記録され、軽薄な笑みを浮かべた者は誰にも相手にされなかった。


「この世界では、嫌がる相手に近づけば罰せられます」


その説明を聞いた瞬間、彼らはようやく理解した。

自分たちが凪沙にしようとしていたことが、この世界ではどれほど卑しく、どれほど軽蔑されるものなのかを。

子息たちへの断罪は、彼らが最も軽く見ていたもの ──── 拒絶の言葉から始まった。


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