3.
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半年の間、凪沙は数え続けた。
自分を笑った者。
侮った者。
見て見ぬふりをした者。
手を伸ばせたのに伸ばさなかった者。
すべてを覚えていた。
王城で開かれた夜会は、凪沙の婚約披露を兼ねたものだった。
大広間には無数の燭台が灯り、楽師たちが華やかな曲を奏でていた。
貴族たちは宝石をまとい、笑顔で杯を交わしている。
凪沙は白いドレスを着せられていた。
異界の乙女にふさわしい清らかさを、という名目で選ばれたものだ。
けれど凪沙には、檻の色にしか見えなかった。
「笑え」
隣に立つエリオルが低く命じた。
「この世界では、女は婚約者として王族の顔を立てるのが礼儀だ」
凪沙は彼を見た。
半年間、何度も聞いた言葉。
都合の悪いものを黙らせるための言葉。
相手の痛みを、文化や慣習という布で覆い隠すための言葉。
凪沙は、ゆっくりと微笑んだ。
「そう」
エリオルがわずかに眉をひそめる。
凪沙は一歩前に進んだ。
曲が止まる。
人々の視線が集まる。
王が不審そうにこちらを見た。
王妃が扇を止め、令嬢たちが囁きを交わし、子息たちが面白がるように口角を上げる。
凪沙は大広間の中央で立ち止まった。
そして、はっきりと言った。
「神様にお願いするわ」
その場の空気が凍った。
ざわめきが、波のように広がった。
これまで召喚された少女たちは、皆、先に願いを告げてからこの世界に降り立ったという。
召喚の間にいなかった貴族は、凪沙も同じだと、誰もが思っていた。
召喚の間にいた貴族は、すでに願いを口にしたと思っていた。
けれど違う。
凪沙はまだ、願いを持っていた。
大広間の天井から、光が降りた。
かつて召喚の間で見たものと同じ、虹色を帯びた白い光。
貴族たちが悲鳴を上げる。
【異界の娘よ。願いを告げよ】
凪沙は顔を上げた。もう震えていなかった。
「私が召喚されて半年。その間に私へ負の感情を向けたり、嘲笑ったり、傷つけようとした連中を全員、私を元の世界に戻すついでに転移させてちょうだい」
「待て!」
それは王だった。
「そのような願い、許されるはずがない!」
「この世界では、異界の娘は国に尽くすものだ!」
神官が叫んだ。
「この世界では、王命に背くことは重罪ですわ!」
「この世界では、貴様のような娘が我々を裁くことなど――」
エリオルが凪沙の腕をつかもうとした。
だが、その手は届かなかった。
「この世界では、そうなのね」
凪沙は静かに言った。
「でも、私の願いは、神様との約束なの」
光が強くなる。
神の声が、大広間を満たした。
【その願い、しかと承った】
次の瞬間、世界が虹色の光に包まれた。
悲鳴も、怒号も、哀願も、すべてが光の中に溶けていく。
最後に見えたのは、信じられないという顔でこちらを見つめるエリオルだった。




