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この世界では、彼女の人生は彼女のものです。  作者: アーエル


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3/11

3.

♧


半年の間、凪沙は数え続けた。

自分を笑った者。

侮った者。

見て見ぬふりをした者。

手を伸ばせたのに伸ばさなかった者。

すべてを覚えていた。


王城で開かれた夜会は、凪沙の婚約披露を兼ねたものだった。

大広間には無数の燭台が灯り、楽師たちが華やかな曲を奏でていた。

貴族たちは宝石をまとい、笑顔で杯を交わしている。


凪沙は白いドレスを着せられていた。

異界の乙女にふさわしい清らかさを、という名目で選ばれたものだ。

けれど凪沙には、檻の色にしか見えなかった。


「笑え」


隣に立つエリオルが低く命じた。


「この世界では、女は婚約者として王族の顔を立てるのが礼儀だ」


凪沙は彼を見た。

半年間、何度も聞いた言葉。

都合の悪いものを黙らせるための言葉。

相手の痛みを、文化や慣習という布で覆い隠すための言葉。


凪沙は、ゆっくりと微笑んだ。


「そう」


エリオルがわずかに眉をひそめる。

凪沙は一歩前に進んだ。


曲が止まる。

人々の視線が集まる。

王が不審そうにこちらを見た。

王妃が扇を止め、令嬢たちが囁きを交わし、子息たちが面白がるように口角を上げる。


凪沙は大広間の中央で立ち止まった。

そして、はっきりと言った。


「神様にお願いするわ」


その場の空気が凍った。

ざわめきが、波のように広がった。

これまで召喚された少女たちは、皆、先に願いを告げてからこの世界に降り立ったという。


召喚の間にいなかった貴族は、凪沙も同じだと、誰もが思っていた。

召喚の間にいた貴族は、すでに願いを口にしたと思っていた。

けれど違う。

凪沙はまだ、願いを持っていた。


大広間の天井から、光が降りた。

かつて召喚の間で見たものと同じ、虹色を帯びた白い光。

貴族たちが悲鳴を上げる。


【異界の娘よ。願いを告げよ】


凪沙は顔を上げた。もう震えていなかった。


「私が召喚されて半年。その間に私へ負の感情を向けたり、嘲笑ったり、傷つけようとした連中を全員、私を元の世界に戻すついでに転移させてちょうだい」


「待て!」


それは王だった。


「そのような願い、許されるはずがない!」


「この世界では、異界の娘は国に尽くすものだ!」


神官が叫んだ。


「この世界では、王命に背くことは重罪ですわ!」


「この世界では、貴様のような娘が我々を裁くことなど――」


エリオルが凪沙の腕をつかもうとした。

だが、その手は届かなかった。


「この世界では、そうなのね」


凪沙は静かに言った。


「でも、私の願いは、神様との約束なの」


光が強くなる。

神の声が、大広間を満たした。


【その願い、しかと承った】


次の瞬間、世界が虹色の光に包まれた。

悲鳴も、怒号も、哀願も、すべてが光の中に溶けていく。

最後に見えたのは、信じられないという顔でこちらを見つめるエリオルだった。


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