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この世界では、彼女の人生は彼女のものです。  作者: アーエル


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10/11

10.



だが、その声は凪沙には届かなかった。

届く道など、最初からなかった。

凪沙はもう彼らのいる場所を知らず、知ろうともせず、彼らの謝罪を受け取る義務もなかった。


謝ったからといって、奪った時間は戻らない。

悔いたからといって、与えた恐怖は消えない。

心からの謝罪であっても、相手に届かなければ償いにはならない。

そして、たとえ届いたとしても、許すかどうかを決める権利は凪沙にだけあった。


彼らに許される日は来ない。

なぜなら凪沙は、もう彼らを許すために生きてはいないからだ。

それでも彼らの罪は、忘却を許さなかった。

エリオルが「俺を誰だと思っている」と叫べば、「この世界では、肩書きではなく働きで判断されます」と返される。

令嬢が「こんな服は恥ずかしくて着られない」と泣けば、「この世界では、服で人の価値は決まりません」と返される。

子息が「女のくせに逆らうな」と吐けば、「この世界では、その考え方こそ最大の恥です」と返される。


何度も、何度も、特大なブーメランが返ってくる。

そのたびに彼らは思い出す。

凪沙がどんな顔をして黙っていたか。

どんな声で帰りたいと言ったか。

どれほど孤独な場所に立たされていたか。


そしてその孤独を作ったのが、自分たちだったということを。



日本以外に落とされた者たちは、さらに過酷だった。

砂漠、山岳、極寒の地、言葉の通じない街。

かつて美しい衣装と家名に守られていた者ほど、何もできなかった。

水の買い方も、助けの求め方も、眠る場所の探し方も分からない。

彼らが凪沙に向けた嘲笑は、今度は彼ら自身の無知へ向けられるものになった。


助けを求めても、思いどおりの助けは来ない。

泣いても、叫んでも、神の光は降りない。

身分を名乗っても通じない。

怒鳴っても従わせられない。


ようやく彼らは知った。

知らない世界へ突然放り込まれ、常識を知らないと笑われることが、どれほど理不尽で惨めなことなのかを。


しかも、彼らは簡単には死ねなかった。

神が与えた転移の余波なのか、異世界で鍛えられた肉体の性質なのか。

病にも飢えにも傷にも、奇妙なほど耐えてしまう。

壊れそうになっても壊れきれず、生き続けるしかなかった。


「神様、お願いだ」


嘗(かつ)て王だった男が、どこかの路地裏でそう呟いた。


「帰してくれ。元の世界へ。私は王なのだ。あの国には、私が必要なのだ」


返事はなかった。

謝罪ではなく、懇願。

凪沙への反省ではなく、自身が如何に必要な存在なのかを主張する言葉だった。


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