村の入り口
静馬と名乗った青年の導きで、一同はさらに密林を進んだ。
先頭を歩く静馬は素足のままなのだが、どういう工夫があるのか、足裏にまったくといっていいほど泥や枯れ葉などをつけず、一同の目には白いかかとだけが目に鮮やかだった。
真っ白な着物に、背中まで達する白髪。袖口や裾からのぞく白い肌のせいで、なんとなくこの世の生き物とは思えない印象があった。
やがて目の前に巨大な鳥居が見えてきた。おそらく高さ10メートルはあろうかという巨大さで、鳥居全体は朱色に塗られていた。
濃い緑色のジャングルに、その鳥居の赤は目に痛いほど鮮烈だった。
「ここが高天原村の入り口です」
鳥居をくぐると、村の全景が目に飛び込んでくる。
一同は思わず立ち止まり、驚きに目を見張っていた。
村、という言葉の響きから、なんとなく茅葺き屋根を想像していたのだが、以外にも立ち並ぶ家々は瓦屋根に近代的な建築の様式で、隠れ里のような雰囲気はなかった。
なにより意外だったのは、いくつかの家の屋根に衛星電波を受信するパラボラアンテナが設置されていたことであった。
さらに屋根に葺かれている瓦は、本土でも使われている太陽電池瓦だった。
棚田に付属している巨大なタンクは、あきらかに揚水装置らしい。はるか向こうには水平線が認められ、そこには最新鋭の海水を真水に変える淡水化装置が鎮座している。
これは隠れ里などではない……衝撃に本土からやってきた一同は立ち尽くしていた。
広大な面積の棚田がつらなり、黄金色の稲穂が実りを迎えている。
その間を収穫のため働いているのは、明らかに人間ではなく、農作業に特化したロボットであった。
「あのロボットは……?」
一同の質問に静馬は笑顔でうなずいた。
「見ての通り、段々畑ですから普通のコンバインとかは使えませんから、わが村ではロボットを導入しています。なにしろロボットたちは休むことなく働いてくれますから、食べるものに困ることはほとんどありませんよ!」
静馬は軽く一同に合図をすると、棚田の間の細い道を歩き出した。
道は土のままだが、踏み固まれていて舗装路のように歩きやすかった。
「静馬ーーっ!」
不意に響いた叫び声に、一同は立ち止った。
道のかなたから、一人の人物が猛烈な勢いでかけてくる。
黒光りする肌、体の半分が足かと思うほど大きなストライドで、これもまた静馬と同じ裸足だった。
背の高さはそれほどでもなかったが、均整の取れた体つきで、全身がばねのように弾んでいた。
頭髪は短く、ちりちりのパーマのように縮れていて、厚い唇と幅広い鼻の持ち主で、あきらかにアフリカ系の血を引いている。着ているものは作務衣に似た、半袖で丈の短い和服だった。
急速に近づくと、その黒人は地面を両足で踏ん張り急制動をかけて立ち止まった。
文字通り、かれの走った後には砂ぼこりが巻き上がっていた。
「滝行はもう終わったのか? 早かったな」
急きこむような早口の話し方で、そうとう気が短そうな印象を受けた。
静馬は鷹揚にうなずくと、背後の一同を指し示した。
「この人たちを案内したんでね」
「ほう……」
黒人は両目をめいっぱい見開き、ぼうぜんとしている一同に視線を向けた。
「すまんが、紹介してもらえんだろうか?」
一同を代表して、先頭の中年の男がおそるおそる尋ねた。
静馬は「ああ!」と会釈すると、黒人に向き直った。
「雄一、この方たちは本土から来られた高校野球連盟の代表団なんだぞ!」
雄一と呼びかけられた黒人青年は、目をいっぱいに見開き、真っ白な歯を見せて笑った。
「そいつはすげえ!」
代表団に向き直ると、姿勢を正しペコリと頭を下げた。
「俺、加賀雄一って言います。よろしく!」
静馬は雄一に向かってうなずくと、代表団に向かって口を開いた。
「雄一は遊撃手なんです」




