試合前日
甲子園第一日。
第一試合開始まで、あと一日。
その夜。
大会スポンサーが用意した五つ星ホテル最上階のスイートルーム。
大京高校野球部の全員が大型スクリーンを囲んでいた。
画面には、昨夜放送された高天原高校特集が流れている。
大阪湾へ到着したアヘアヘ号。
報道陣に囲まれる疾風乱。
生身だけで甲子園へ挑む九人。
神社で玉串を奉奠する姿まで映し出されていた。
乱のインタビューが流れる。
「私たちは、生身だから負けるとは思っていません」
そこで映像が終わる。
部屋は静まり返った。
主将の皇大和がゆっくり立ち上がる。
「感想は」
部員たちは誰一人答えない。
ただ、全員が薄く笑みを浮かべる。
それだけで十分だった。
皇は小さくうなずいた。
「私も同感だ」
その一言で話は終わった。
部屋の隅では、マネージャー兼監督の美女が試合データを整理している。
「リアクター設定は予定通りでよろしいですね」
「変更はない」
皇はそう答えると、彼女の腰へ自然に手を回した。
「残りは部屋で確認しよう」
「承知しました」
二人は奥の自室へ姿を消す。
残された部員たちは、それを見ても何一つ表情を変えない。
まるで毎日繰り返される日常の一場面だった。
一人が腕時計を見た。
「集合は朝までに集まること」
全員が静かに立ち上がる。
部屋を出ると、ホテルのラウンジには彼らを待つ女性たちが集まっていた。
誰も驚かない。
ホテルの従業員も、宿泊客も、大京高校の選手たちの日常として受け止めている。
部員たちは自然に合流すると、談笑しながら大阪の夜の街へ姿を消していった。
同じ時刻。
高天原高校の宿舎では、乱たちが静かに夕食を囲んでいた。
決戦を前にした二つのチーム。
その夜の過ごし方は、あまりにも対照的だった。




