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イライラしながら言い返すと、少年はリズの嫌味を再び鼻で笑い、手に持っていた紙を見せつけてきた。
いきなり目の前に現れた紙に驚いてぎょっとしたものの、そこになにか文章が書かれていることに気づいて、反射的に目で追う。
「『試験に合格したことをお伝えします。よって、魔法使いの資格を与えます』……」
思わず口に出して読むと、横でティナが息を呑んだのがわかった。
「え……?」
理解が追いつかない。
まさか、こいつが、魔法使いに……?
「うそっ!?」
合格を知らせる通知を引ったくり、もう一度文字を追う。内容は変わらず、確かに魔法使いの資格を与える旨を伝えるものだった。偽造ではないかと思ったが、下の方に押されている魔法省の判は間違いなく本物だ。
「ホントに合格したんだ……」
身体から力が抜ける。この資格は国内に存在する数多の資格の中で一番難しいとされていて、受験資格には厳しい条件があることで有名だ。それをクリアしても合格できるのはほんの一握りとされている。
リズは受験資格をクリアできずに、受けることすら許されなかった。条件さえクリアできていれば、絶対に合格する自信があったのにも関わらずだ。
「シドくん、本当に受かっちゃったんだぁ……」
ティナは心底驚いたらしく、呆然とした様子で口を開く。
リズの反応に気をよくしたのか、シドは得意げな顔をしている。
「合格証書が届いたら、特別に見せてやるよ」
「けっ・こう・です!」
合格通知を突き返す。
受け取ったシドは、にやにやとした笑みを浮かべ、「どこの会社でも不採用になったお前を、俺の会社で雇ってやろうか?」と言うので、リズは腹立たしい気持ちを隠せない。キッと睨みつける。
シドは、この国では子供でも知っているような大企業マクファーレングループの御曹司だ。しかも、跡取りでもある。
その彼が雇ってやると言うのは、誰でも就職を夢見るような大企業にということだ。内定すらもらえていないリズには飛びつきたくなるほどいい話で、一瞬だけ心が揺らぐ。
しかし、シドのにやにや顔を見てすぐに我に返りまっすぐに見据えて「お断りします」と答えると、途端に彼がむっとしたような表情になる。
リズが「雇ってください」と泣いてすがるとでも思っていたのだろうか。そんな思惑に誰が乗るものか。絶対にこんなやつにすがったりなんてしない。自分の力で内定を勝ち取ってみせる。
だが、ティナは「雇ってもらったら?」なんて無責任なことを言ってくる。
リズだってシドのことを抜きにしても、マクファーレングループで働ければいいかもしれないとは思う。ここで働くことができれば、一生安泰であるのは間違いない。でも、それでもこの会社を希望しなかったのには理由がある。
リズは半目で親友を見て、「ティナだって、私がこいつの会社を希望しない理由を知ってるでしょ?」と言うと、「それもそうね」と納得したようだ。
この際だからどこでもいいから雇ってくれ、と思うが、一応希望する職種はあるのだ。その仕事に就くために、家族に無理言ってこの学校に通わせてもらい、寝る間も惜しんで勉強して優秀な成績を修めたのだから。
ここで妥協したら、五年間の努力が水の泡になる。
「この俺が雇ってやろうって言ってるんだから、お願いしますと泣きつけばいいものを」
その言葉に、イラッとしながらもにっこりと笑う。
「いくら内定がもらえなくても、私にだって会社を選ぶ権利ぐらいあるんです」
「はっ。そんなことを言っていられるのも今のうちだぞ? そのうち、俺の言葉に泣いてすがればよかったって思う日がくるからな」
二人でにっこりと笑ったまま火花を散らす光景に、ティナが「あいかわらず、仲良しだねぇ」とつぶやいたのをリズは聞き逃さなかった。
「やめてよ、ティナ。なんで私がこんな嫌味男と仲良くしなきゃいけないのよ」
「それについては同感だ。こんな可愛げのない女と仲良くなる道理がない」
シドは腕を組んで、鼻をふんと鳴らした。
なまじ顔が整っている分、どんな仕草も映える。しかし、リズにはシドの一挙一動がムカついてたまらない。
ふふふ、とリズが微笑む。
「可愛げがなくてごめんなさいね。あなたが今までの非礼を頭を下げて詫びるんだったら、少しくらい優しくすることを検討してあげてもいいわ」
「本当に可愛げがないな。だから、どこも不採用になるんだよ」
シドが放った一言。それは今のリズにとっては禁句だ。
「ちょっと! それは関係ないでしょうが!」
机の上にあった不採用通知を再びくしゃくしゃに丸め、シドに向かって投げつける。
彼はそれを軽い動作で払いのけ、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。魔法使いの資格に合格した余裕が窺える。
あぁ、イライラする。
「その顔ムカつく! さぞかし気分がいいでしょうね。毛嫌いしている私が内定をもらえなくて、自分は最難関の魔法使いの資格に合格したんだから!」
シドを指差して言うと、思ったよりも大声だったらしく、クラス中の生徒たちがリズたちに注目した。
『シドくん、魔法使いの資格に受かったんだって』『うそ。マジで?』『シドくん、すご〜い』『さすがだね』
そんなざわめきが教室に広がっていく。
「私だって、高い魔力があれば試験を受けられたのに……!」




