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「研究は研究でも、医療研究ね。この学校で優秀な成績を修めたら、いい企業から簡単に内定がもらえると思ってたんだけど、あまりにも現実が厳しすぎて涙が出てきそう」
「ここは、就職率と進学率百パーセントが謳い文句だもんね」
「それもだけど、ここが国一番の名門校だからだよ。ここを卒業して就職すると、出世とか昇給がかなり有利になるって噂が地元にあって、それでここに入学したの」
就職し、出世して、お金をたくさん稼いで、今まで苦労させた母と姉を楽にさせて、ついでに借金も返済!
小さい頃から描いていた未来予想図がこれから始まるはずだったのに、なぜか一番最初の段階でつまずいてしまっている。
「次! 次こそは内定を取ってみせる!」
身体を起こして拳を強く握って高々と上げると、それを見ていたティナが「おー」とぱちぱち拍手をして、「じゃあ、英気を養いに食事でも行こうよ」と提案してくる。
その言葉に、へなへなとリズは再び机に突っ伏した。
「さんせーいって言いたいところなんだけど、夕方はバイト三昧なんだよね」
「えー」
心底残念そうなティナに視線を向ける。
「ティナだって知ってるでしょ? うち、借金あるし。お母さんとお姉ちゃんにはここの学費をお願いしてるから、これ以上の負担はかけられないもん。この学校の学費って、貧乏なうちからするとかなり高額だし。だから、テキスト代とか自分の生活費は自分で稼がなきゃ」
「勤労学生だね。自分の生活費は自分で稼ぐなんて。わたしなんて親からの仕送りで生活してるのに。リズ偉すぎ」
十三歳でこの学校に入学し、リズはすぐにバイトを探し始めた。家族に求めたのは学費の支払いだけ。この学校は、ある条件さえクリアしていれば誰にでも受験資格が与えられるのだが、残念ながら授業料は馬鹿高い。なので、受験資格はあっても入学できる子供の数は少ない。
それでもリズは筆記試験で好成績を出して合格し、特待生としてほかの生徒よりもかなり安い入学金と授業料で入学を果たした。その金額すら、借金を抱えるリズの家には高いものだった。だから、これ以上の負担はかけられるはずがない。
「ここに通うわがままを聞いてもらったんだもん。自分でも最低限のことはしなきゃ」
「でも、ここ最近ほとんど休みなく働いてない?」
「就職活動にはなにかとお金がかかるんだよ。履歴書とか移動費とか。こればかりは学校が面倒見てくれるわけじゃないしね。面接対策の企業のリサーチとかにも時間がかかるし。ティナは進学組だけど知ってるでしょ?」
「知ってはいるけど……。そのお金すら自分で工面するとか、本当に偉すぎ。わたしも見習わないと」
「もっと褒めてー。不採用通知に傷付いた私の心が癒えるくらいにー」
「よしよし」
ティナが優しく頭を撫でてくれ、その感触を目を細めて味わったところで、視界の隅で教室のドアが勢いよくガラッと開けられたのが見えた。周辺にいた生徒が、ぎょっと驚いた様子を見せている。
そんな彼らの視線を受けてももろともせず、そのままズカズカと中に入ってくる人物が誰なのか認識した瞬間、リズは思わず「げっ」と言葉をもらした。
それでティナもリズと同じ方向に目を向け、小さく「あらあら」と言いながら口元に手を当てる。
「……なにしにきたのよ」
唇を尖らせたリズは、目の前までやって来た人物に不機嫌さを隠すことなく声をかける。
色素の薄い茶色の髪に、意志の強さを感じさせる不可思議な色合いの瞳。現れた瞬間に教室中の女子がざわつくほどの整った容貌をした同い年の少年は、リズの机の上に広げられたくしゃくしゃになった紙を見て、状況を把握したのかにやりと笑った。
「また落ちたのか」
「うるさい。あんたには関係ない」
クラスどころか学科さえも違うのに、こうやって現れては嫌味を言いにくる暇なやつだ。
二年生の時から続けられる光景にクラスメイトたちも慣れたもので、進学組などは気にせずに勉強を続けている。
就職組の子たちは少年の登場の時こそざわついたものの、今では自分たちのおしゃべりに夢中になっている。数人の女子はこちらをちらちらと見ているが、どんな話をされているのかは考えたくもない。
注目を集めていることをまったく気にすることなく、少年は腕を組んで鼻で笑った。
「はっ。お前のそういうところを面接官も見抜いてんじゃねぇの?」
その言葉に、リズの片眉がぴくりと動く。癇に障る言い方に、思いっきり言い返したい気持ちをぐっと堪える。この時期に学校で問題を起こすわけにはいかない。けれど、それでも一言くらいは言ってやらないと気が済まないのも事実だ。
「……嫌味を言いにきたの? あんたも相当暇人なのね。就職するって言ってたけど、お父さんの会社に就職するんでしょ? 就職試験も面接も受けなくていいなんて、うらやましいかぎりだわ」




