【終話】
【冬の102日】→【冬の90日】に変更しています。
日付を間違えていました。
すみません。
さて。
私は今。
煉瓦のしかれた広間に正座しています。
正面には、おどろおどろしい渦のようなものをまき散らしている鬼の足が――
「―――何も言わずに飛び出すなんて子供ですか、貴女は。今どきは子供でも――って。お嬢様……? 俺の話、聞いてます?」
……………まぁ……。
とても低音ですこと……。
「…………お嬢様。俺の言葉を聞いていたら、右手を上げてください」
いやだわ。
なにやら刺々しい言葉がした気がするの。
そんなこと。
ないわよね!
だって、テノールだもの!!
とーっても優しいんだから!
「お嬢様。顔を上げてください」
あら?
声が急に平坦になった?
抑揚がないような気がするの。
でも。
気のせいよね!
あ。
蟻だ……。
へぇ……。
煉瓦と煉瓦の間を通ってるんだ。
これなら踏まれるって危険がなくなるのね。
良く考えてる……。
「コホン! 今すぐ顔を上げなさい。そうすれば、貴女が話を聞いていなかったことは見逃します」
あ。
良く見たら隊列を組んで歩いているのね!
……?
運ばれている、白い小さなものは何だったのかしら?
食べ物だったということは間違いないのよね?
「…………お手……」
ん?
テノールがしゃがんだ……?
そして、白いグローブのついた指先?
ついでにおどろおどろしいモノの範囲が広がった……?
まぁ。
気のせいね!
……でも。
いったいどこから……?
すいっと、蟻たちが来ている方を向いてみた。
すると。
右手にはクリームパン。
左手には薄い蒼の一升瓶(ラベルが【魔王殺し~どんな奴でもイチコロさ!~】)を持ち。
酷く幸せそうな赤い顔で涎を垂らし、煉瓦の床にうつぶせで転がる……ひどく見慣れた濃い茶色の短髪のお年を召されたような男性が―――って、お爺様っ?!
どうしてお爺様が!!
って!
え?
どうしてお爺様がこのようなところに転がっているのっ?!
「おい。テメェ、聞いてねぇだろ……」
不意に上がった目線。
みしみしと嫌な音と酷い痛みが……。
「話、聞けって言ったよな」
ひぃ!
て、テノールが貼りつけたみたいな笑顔浮かべてる!!
「テメェの耳は飾りか」
『ひぃ! ごごごごめんなさい! 謝るから、謝るから手に持ってる果物ナイフを仕舞って!!』
「そうか。飾りか……飾りなら、いらねぇな」
『いるっ! いるいるいるっ!! 必要ですぅっっっ!! ごめんなさいごめんなさいっ! 私が悪かったから!! もう二度と誰にも言わずに出て行ったりなんてしないからっ!!』
白いグローブに握られ、きらりと輝いたナイフ。
それを見て。
私は手で両耳を押さえて暴れた。
と言っても。
足を振るだけしか出来ないけどねっ!
『わぁああああんっ! ごめんなさいぃぃ!! 反省してます、すっごくすっごく反省してますぅううう!!』
「…………はぁ……。本当ですか?」
(訳)『チッ……。テメェの言葉は聞き飽きてんだよ』
張り付けた笑みで、目が笑ってないよ……。
ついでに、聞き飽きてるって……。
まぁ。
さんざん変なことしてるけど…………。
そんなに怒んなくてっも良いじゃん……。
「お嬢様……?」
(訳)『落とすぞ』
何を。
とは聞かない。
いいえ。
聞かなくても分かるよ。
『耳』よね。
『ごめんなさいぃぃ! 今度は、今度はちゃんと相談しますぅぅうううう!!』
「約束ですよ」
(訳)『胆に銘じておけ』
にっこりと。
張り付けたような笑顔が消え。
テノール本来の笑みが戻った――と、見せかけて目が笑っていなかった……。
だから私は――。
『はい! 胆に銘じます!!』
「ならばよし。さぁ、帰りましょう」
穏やかな笑みのテノール。
私はそんな彼に頷き――
「皆が、待っています」
(訳)『覚悟しとけ』
……やっぱり逃げようかな…………?
なんて。
考えたけど頭をテノールに押さえられてるから、脱走できませんでした!!
結果。
私は屋敷に連れ帰られ。
使用人をしてくれている皆に叱られるわ、もみくちゃにされました……。
お菓子をお預けにされました。
双子が口をきいてくれません……。
テノールがおどろおどろしいのを消してくれないの……。
そして。
私が無断外出した日は、冬の日の最終日だった。
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「ねぇ、テノール。私が悪かったから、もうたくさん反省したから、草料理はやめない?」
「そうですね。反省が足りないようなので、秋の日まで俺がお嬢様の食事を担当しますよ」
「え?! もう春の日が終るのにっ?!」
「嗚呼。では、冬の日まで続けましょうか」
「え……? うそ、嘘でしょ? 嘘よねっ?!」
私の問いに、テノールは目が笑っていない笑みを向けるだけで何も言わなかった……。
一応。
これで完結します。
お付き合い下さってありがとうございました。
本当は、故郷まで行かせたかったんですけど無理でした!(笑)
まぁ。
まったく関係ない話ですけど、今度は。
今度こそは、一年近く放置してる物語を完結させて見せるっ!!
と、思っています。
……まぁ、何とかしてみます。
ありがとうございました。




