閑話1
深夜の裏路地で、女の悲鳴が上がった。
発見された女性は、右腕を肘から斬り落とされていた。
財布もスマートフォンも残されている。
奪われたのは、腕だけだった。
事件のことは、すぐにSNSで広まった。
「女の人の腕、切り落とされてたって」
「刃物でやられたらしい」
「強盗じゃなくて、腕だけ持ってったってマジ?」
憶測ばかりが飛び交ったが、その時点では、異様な傷害事件として扱われていた。
ところが翌週、別の場所で同じような事件が起きた。
今度は左腕だった。
持ち去られた左腕は、翌朝、現場から離れた裏路地の非常階段で発見された。
腕には、何度も強く握り直したような、小さな指の痕が残っていた。
二件の事件は関連があるものとして報じられ、被害者たちの証言にも共通点が見つかった。
「『ちがう』『これじゃない』って、何度も言っていました」
「私の顔なんて見てなくて……腕にしか興味がないみたいでした」
そして、ある夜。
雑居ビルの非常階段に設置された防犯カメラが、一人の人物を捉えた。
フードを深くかぶり、大きなジャケットを羽織った小柄な影。
片手で胸元を押さえ、うつむいたまま歩いている。
歩く拍子にジャケットの胸元がずれ、その隙間から人の指が覗いた。
その後も、事件は続いた。
やがて、腕ごと持ち去られることはなくなった。
奪われるのは、手首から先だけになった。
右手のときもあれば、左手のときもあった。
持ち去られた手は、しばらくすると別の場所で見つかった。
被害者に共通点はない。年齢も、職業も、住んでいる場所も違う。
夜の街では、ときおり、大きすぎるジャケットを着た小柄な女を見たという噂が流れるようになった。
けれど、その正体を知る者はいなかった。




