閑話2
あれから、どれくらいの時間が経ったのか、よくわからない。
わたしは、いまも探している。
あのぬくもり。あの指先。あのとき、たしかにあったもの。
先生の手は、少しずつ別のものになっていった。
においがして、色が変わって、皮がめくれて――それでも、捨てられなかった。
毎晩、何度もさわった。
でも、朝になってもぬくもりは戻らなかった。ふれても、わたしの身体は返ってこなかった。
それでも、先生の手だと思っていた。
ずっとそばに置いていた。夜中に泣きながら握ったこともある。
でも、もうだめだった。ふれても、何も戻ってこなかった。
先生の手だったものは、ただのモノになってしまった。
だから、探し始めた。
知らない街を歩いた。
いくつも駅を通り過ぎ、人気のない路地裏にも入った。
どこかに先生の手がある。だから、探し続けた。
でも、見つからない。
これも違う。あれも違う。
似ていても、全部違う。
何も感じない。何も戻ってこない。
「……ちがう……これじゃない……」
また、違った。
ナタも、あのアトリエから持ち出したまま。
重さは感じない。でも、振ることはできる。それで十分だった。
先生のジャケットも、まだ着ている。
もう匂いもほとんど残っていない。それでも、これを着ていると少しだけ安心した。
先生がまだ近くにいるような気がした。でも、足りない。
あのぬくもりがない。
だから、わたしはまだ探している。
先生の手を。
きっと、どこかにある。見つければ、また戻れる。
だから――
見つかるまで、探せばいい。
先生の手を。
きっと、どこかにある。見つければ、また戻れる。
だから――
見つかるまで、探せばいい。




