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猛暑とピクニックと魔法の花

待ちに待ったピクニック!

しかし、めちゃくちゃ暑いようで……

次回で話が大きく進む予定なので、今回はその布石になります。

魔法シーンもあるので、楽しんでいただけると幸いです!




 昼食の際に森へ行くことを約束してから、早2か月ほど。ようやく念願外出だ。数日前からお兄様とお姉様と一緒に持っていくものとかを相談していたんだよね。準備ばっちり!みんな揃って庭先の正門から出発!レッツエンジョイ!になるはずだったんだけど……


 「あっっついです……」

 「ああ、まさか空の日に被ってしまうとは……」


 ここブラフヘルメルは、昨日までの快適な夏が嘘かのような熱波に襲われていた。気温と湿度がグンと上がり、日光が容赦なく肌を焼く。まだ朝と言っていい時間帯のはずなのに、地面から陽炎が上っているのも見えるほどだ。子供たちだけでなく、いつも優雅なお母様や隙がないお父様でさえ、この暑さに見事にばててしまっている。


 「空の日ってなんですか?」

 「空の日は、その年の夏で一気に暑くなる最初の日のことだよ。今年の夏はしばらく暑さが続きそうだ……」

 「この暑さが続くんですか!?」


 ひょええええええ!無理だよやってらんないよ!

 立っているだけで汗が噴き出てくるのだ。外に出たばかりなのに、背中も頭もべったべたなのに、これが続くとか恐ろしすぎる。


 「森のほうに行けば涼しく感じられるはずよ。馬車を持ってきてくれているから、あと少しの辛抱ね」


 そう言うお母様こそ、着飾っているせいで一番暑そうだ。領主婦人ともなれば、どんな時でもおしゃれに気を抜くことができないらしい。


 「父上、母上、馬車が来ましたよ!」

 「よし、本格的に暑くなる前に早く行こう」


 目的地はあまり遠くはなく、体感では30分ほどで到着した。すごく遠いというわけではなかったが、身動きがしにくい馬車の中に家族5人に加え、ティリアとお父様の専属執事、お母様の専属メイドの計8人が乗っており、あまり乗り心地はよくなかった。

 

 「さあ、ついたよ!」

 「わあああ!」

 「やっと、やっとですかぁ……」


 お父様の声にお兄様とお姉様が馬車から飛び出していく。すっかり暑さにやられた私とお母様は、既に疲れ切ってしまい、元気に走り回る2人を見送ることしかできなかった。


 「お母様、大丈夫ですか?」

 「大丈夫よ、ありがとう。木が影になってくれているから、そこで少し休めば元気になるわ。フレージアも遊びに行かなくていいの?」

 「私は暑さにばててしまって……。ティリアたちと少し休んでからにしようかなと思います」

 「2人とも、大丈夫かい?」

 「ええ。軽い熱中症ね。ここは涼しいからすぐに良くなると思うわ。」

 「分かった。あまり無理はしないようにね。おーい、アスター、リリアナ―」


 お父様が呼べば、既に遠くまで行ってしまった2人が競うように走って戻ってきた。2人とも動きやすいようにお兄様は半袖短パン、お姉様は私とおそろいの白いワンピースだ。通気性がとてもいい。


 「今日は暑いからしっかりと水分をとること。それから、私たちの目が届かないところへ行かないようにすること。約束できるかい?」

 「もちろんです父上!」

 「お父様、川に入ってもいいですか?」

 「浅いところ……水面が膝より下のところまでだったらいいよ。行っておいで。ああ!あと、お昼になったら休憩だからねー!」


 きゃー!と走り出してしまった2人に届いたか分からない声をかける。ふう、と息をつき、お父様も2人を追いかけて走っていった。さっきよりは涼しいとはいえ、それでも暑いのに何であんなに元気なんだろう。精神年齢の差かな。

 サラサラと流れる小川は透明度が非常に高く、底まではっきりと見えるほどだ。魚もいるのだろう。早速川に入っていったお兄様が、何かを捕まえようと奮闘している。

 試しに私も川に手をつけてみると、思っていたよりもひんやりとした感覚が指先を包んだ。


「冷たくて気持ちいですね」

「この川の水は向こうの高い山から流れてきたものなの。一年中雪と氷に覆われているから、夏でも冷たい雪解け水が流れているのよ」


 お母様が指差す先に、上のほうが白っぽい山脈が連なっているのが見えた。標高もかなり高そうだ。

 結構冷たいけど、火照った身体にちょうどいいよ。あ、お兄様が魚を捕まえたみたい。


 川の近くの開けた草地にティリアたちが敷布を敷いてくれている。とても仕事が早い。ちょうど木かげになっているので、準備ができ次第そこで休むことになった。さっそく敷物に寝転ぶと、木漏れ日を作る木々の葉と空高い青空、それから遠くに浮かぶ入道雲が見える。

 木や草花の形も前世のものとそっくり……。これが植物的に最適化された形ってことかな。走り回る木とかは無いみたいだね。ちょっと残念。


「お母様、なぜ急に暑くなったのですか?お茶会のときはまだ快適だったのに」

「そうねえ。物語では、空の女神が遠くへ行けない花の女神に見せるために砂漠の天気を持ってきた、と言われているけれど、フレージアが知りたいのは地学的な理由よね。確か……海流の影響で急激に暑くなると聞いたことがあるわ」

 「ブラフへルメルの近くに海があるのですね」

 「え?ええ。西海岸に大きな港町もあるのよ」


 私の隣に同じく寝転がったお母様が少し悩んだのちに教えてくれる。子供のなぜなぜにしっかり答えてくれるなんて、なんと素晴らしいお母様だろうか。

 海か。魚とか海苔とか食べられないかな。今のところ肉料理や穀物がメインで、魚料理は見たことが無いんだよね。うう。和食を食べたくなってきたよ。


 「春頃になったらみんなで行けるかもしれないわよ」

 「そうなんですね!楽しみです」


 その後もお母様に私の質問に答えてもらったり、ティリアとシロツメクサっぽい黄色い花で花冠を作って遊んでいた。

この世界での記憶を思い返しても、このように外へ遊びに出るのはめったになかったのでとても清々しい。いくら広いとはいえ、ずっと屋敷の中にいると息が詰まってしまう。



 ◇

 


 「旦那様ー!アスター坊ちゃんー!リリアナお嬢様ー!そろそろお食事にいたしますよー!」


 ティリアがいつまでも川で遊んでいる3人を呼ぶ。もうお昼の時間らしい。しかし、遠くに行ってしまった3人は、「はーい」と返事をするが、いつまでたっても川から上がってこない。


 「来ませんねえ」

 「もう、いったい何をしているのかしら。フレージア、一緒に呼びに行きましょう」


 お母様と手を繋いで川岸へ歩いていくと、川に入ったままの3人は何かを覗き込むようにごそごそしていた。

 

 「そろそろご飯だって、ティリアが呼んでますよ」

 「お、来たね2人とも。こっちへおいで」

 「まったく、貴方までいっしょになってしまって。何をしているのです」


 「いいから」と笑いながら言うお父様に手を引かれ、私とお母様もサンダルを脱いで川へ入る。お父様と同じように、お兄様とお姉様もなにやらニヤニヤしていた。

 ……虫とかじゃないよね?


 「2人はそこで見ていてくれ。……それじゃあ、アスター、リリアナ、準備はいいかい?私の合図に合わせるんだぞ」

 「大丈夫です父上。早くやりましょう!」

 「私も大丈夫です」

 「じゃあいくぞ。せーの!」


 お父様の声に合わせて水につけていた3人の手元が青く光り、川の水が水しぶきを上げながら空高く巻き上がった。まるで巨大な噴水のように高くまで上がった水は、やがて巨大な1輪の水の花へと形を変えた。私たちの上をすっぽりと覆うほど大きく咲いたその花は、夏の光を浴びてキラキラと輝いている。透き通った水の揺らぎに照らされ、まるで自分が水の中にいるかのようだった。


 「きれい……」

 「やった!大成功です父上!」

 「うまくいって良かった!」

 「こら2人とも!魔法の発動中に気を逸らしちゃだめだろう!」


 魔法で作られた花は術者の制御を離れたことで形を崩し、元いた場所へと降り注いだ。そう、水面に。つまりフレージアたちの真上に。


 「きゃあ!」

 「うわぁー!」

 「ひゃあー!」

 「きゃー!あっはははは!」


 5人で川の中に固まっていた私たちは、髪も服も、全身が見事にびっしょりと濡れてしまった。


 「みんな、大丈夫か!」

 「大丈夫ですお父様!今の、すごくきれいでした!」

 「そうだろう!父上と私、リリアナの合同魔法だ」

 「すごいわ。アスターもリリアナも、こんなにすごい魔法も使えるようになっていたのね!」

 「皆さまー!ご無事ですかー!」


 向こうからものすごい形相のティリアたちが走ってきた。

 そりゃそうだよ。いきなり水が巻き上がったかと思ったら、全部降ってくるんだもん。びっくりするよね。


 「ああ、大丈夫だ。あー、ちょっと魔法を維持できなかっただけだからね」


 へへっと笑いながらお父様が言った。ティリアがざっと全員を見回して怪我がないことを確認する。

 

 「まあまあまあ!皆さんこんなに濡れてしまって。今日は暑いですが風邪をひいてしまいますよ。早く乾かさなければ」

 「それに関しては私に任せてくれ。この手のことは得意だからね。それに最後まで維持できなかったのは私の責任だ」


 じっとしていてね。と言ってお父様が手を軽く広げる。すると、優しく心地よい風が私たちの間を通り抜けた。ふわりと風が服をなでるたびに水の玉が浮かび上がり、髪を撫でていった。今まで味わったことがない不思議な感覚に夢中になっているうちに、全身すっかり乾いてしまったようだ。

 すごい。スーパードライヤーだ!前世でも欲しかった。


 「服も、髪も全て乾いてます。すごいですお父様!」

 「ふふっ。風の魔法はお父様の得意な魔法ですからね」


 まるで自分のことのようにお母様が自慢する。

 あ、お父様が照れてる。仲がいいねえ。


 「ん˝っん。えっと、そろそろ昼食だったんじゃないのかい?」

 「ああ!そうですよ!早く行きましょう!私もうお腹ペコペコです」


 私の悲鳴に皆が笑いながら同意する。お兄様とお姉様に手を引かれ、まだふわふわとした感覚が抜けきらないままティリアの待つ川岸へ踏み出した。



ご覧いただきありがとうございました!

水の花、すごいですね。私も見てみたいです。

前書きでも書いた通り、次回のお話では物語が大きく進みます。

近日中に公開いたしますので、お待ちください!

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