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お父様による魔法の授業

魔法を教えてもらえることになったフレージア。

さあ、魔法ってどんなものなんでしょうか!

一般的な設定とは少し違うので、楽しんでいただけると嬉しいです!


最後の方には、結構重要な話もありますよ




 「それじゃあまず、魔法が何なのかを教えていくね」

 「はい!お願いします、先生!」


 図書館で目当ての本を見つけた後、私はお父様の執務室で初の魔法の授業を受けていた。

 先生って呼ばれてまんざらでもなさそうだね。


 「まずフレージアには大切なことを知っておいてほしい。私は、フレージアに魔法を人を傷つけるために使ってほしくないんだ。魔法は確かにすごいし便利だ。だけど、使い方を誤ったら何よりも恐ろしい危険物になってしまう。フレージアにそんなことしてほしくないし、魔法を危ないものにしてほしくない。だから、魔法は慎重に使うこと。それから、感情が荒ぶった状態で使わないこと。この約束を守れるかい?」


 執務室のソファに座る私の前に膝をつき、私の低い視線にしっかり合わせてお父様は言った。

 普段人の役に立つものが凶器になってしまうことは、前世でよく知っている。私も道徳教育を受けてきた日本人だ。誰かを傷つける気は毛頭ない。


 「はい。もちろんです。私も人を傷つけたくはありません」

 「ありがとう」


 私の言葉に硬くなっていたお父様の表情が和らいだ。

 異世界といえば、魔法バトルみたいなイメージがあったけど、こんな優しい考えの人もいるんだね。お父様の子供でよかったよ。


 「よしっ、じゃあ早速始めよう。まず大前提として、魔法には魔力が必要になる。……暖炉の火が魔法なら、魔力は薪になるね。そして、その魔力にも2種類あって、その2つを用いて魔法を使うんだよ。」

 「なるほどなるほど」


 魔法があるくらいなら魔力もあるだろうと思ってたけど、2種類もあるとは思ってなかったよ。どんなゲームでもアニメや小説でもMPだけじゃなかったっけ?


 「ここがまず難しいところでね。魔法を初めて習う子はまずここで躓くことも多いんだ。1つ目の魔力は体内魔力。フレージアの体の中にも、私の中にもあるものだよ。2つ目は空間魔力。これは自然が豊かな場所であれば、どこにでもあるものだね。この2つはそれぞれ使う目的が違っていてね……」


 どう説明するか考えてくれているのだろう、「むずかしいなー」と頭を悩ませている。


 「体内魔力を使って魔法の発動のきっかけを作る。空間魔力を使って魔法を発生させる……といった感じかな。ティリア、うまく説明できないかい?」

 「私は自力で魔法を使えませんからねえ。旦那様の方が感覚もよくお分かりでしょう」

 「そうかあ」


 むむむ……。ややこしいね。もっとファイアーボール!とかで、ポンポンとできるもんだと思ってたよ。


 「えっと、さっきのように暖炉の火を魔法とすると、空間魔力は薪であり炎そのもの、体内魔力は火種になるということですか?」


 消化するのにうんうんいっている私を、お父様とティリアが驚いたような表情で見てくる。


 「あれ、違いましたか?」

 「い、いや合っているよ。魔法に興味があったというのは本気だったのか」

 「すごいですよお嬢様。確かにその説明であれば、魔法を難しく思っている子供たちにも理解できるでしょうね」


 安堵する私をヘンディアノが見つめ、一度小さくうなずいた。


 「普通に魔法を使おうと思ったらこの2つは欠かせない。だけど魔法具を使うと、どちらかだけがあれば魔法を使えるようになるんだ。空間魔力と体内魔力は本質的なところは同じで、魔法具を介することで体内魔力が無い人も使えるようになるんだよ。」

 「体内魔力を持たない人もいるのですか?」

 「もちろん。むしろ魔力を持っている人の方が珍しいんだ。魔力があるのは主に貴族と、貴族を先祖に持つ平民が持つこともあるよ。それから、ごくまれに先祖が貴族ではなくても魔力を持って生まれる平民の子もいるよ。まあ、そういった子はあまり量を持っていないわけだけれど」

 「私も体内魔力を持っていないのですよ。なので空間魔力だけで動く魔法具を用いておりますよ。フレージア様のお部屋のランプも魔法具ですね」

 「あの色が変わるランプ!身近なところにあったのですね」


 ティリアが触れたら光の色が変わるのだ。すごいなーとしか思っていなかったけど、ずっと魔法を見ていたとは。それに、この世界は貴族社会なんだね。領主以外にも貴族っているのかな。


 「魔力は2種類だけど、魔法はもっと種類があるよ。例えば、」


 そう言ってヘンディアノは両方の手のひらを上に向け、ふわりと動かす。すると、右手にはポコポコと水玉が、左手には渦を巻く炎が現れた。

 すごいすごい!私が思い描いてた魔法って、こういうのだよ!


 「こんな感じのものが属性魔法。魔法にはいくつか属性があるんだけど、その属性をそのまま発動させたものだね。」


 そういうと、手を振って水と火をフッと消してしまう。


 「2つ目はいくつかの属性を複雑に絡め合わせて構成した魔法。さっき見せたのは、もの探しの魔法だね。魔力を使った現象を総じて魔法というけど、ああいう複雑なことをできるものを特に魔法と呼ぶ人が多いかな。正式名称は複数属性同時処理魔法というんだけどね。」


 おう。急に難しく。


 「3つ目は特殊魔法。他の魔法とは少し性質が違うそうなんだ。皆が知っているような魔法ではなくて、家族だけとかに制限されていることが多いんだ。ちなみに、この魔法は必ずしも属性に関係していることがないらしいよ。」

 「らしい、なんですね」

 「魔法に関する研究はあまり進んでないからね。分かってないことや曖昧なことも多いんだ。……そしてなんと、我がブロムキント家にも伝わる特性魔法があります!」

「おお!」


 そういうと、お父様は私の目の前に両手でボールを包むように組んだ手を持ってくる。軽く目を伏せたお父様が両手に一度力を入れ、パッと開く。その中には5輪の小ぶりの鮮やかな花があった。


 「わあ!お花を作り出す魔法ですか!」

 「正解!これがうちの領が花の領地と呼ばれる理由の1つだよ。来年の花祭りまでにはフレージアもできるようにならないとね」


 花祭り?知らないんですけど、来年までって時間短かくない?そんな簡単にできるものなの?

 

 お父様が、作った花を私の手に乗せてくれる。瑞々しく、まるで本物のようだ。だが興味深く眺めていると、前触れもなくフッと消えてしまった。


 「消えて……!ごめんなさいお父様!」

 「ああ、大丈夫だよ。魔法だからいつかは消えてしまうんだ。魔力をたくさん込めれば、長い時間持つこともあるけどね」


 びっくりした。まずいことをしたかと思った。


 「じゃあ次は自分の体内魔力を感じてみようか」

 「今もわたくしの中にあるのですよね。あまり感覚はありませんが……」

 「魔力がある今の状態に慣れているからだね。魔力は私たちの体内を一定のスピードで循環している……といわれている。そこに、私の魔力を流して、そのスピードを一時的に早めるんだ。違和感があったら、それが自分の魔力の流れだよ」


 手を出して、と言われ、差し出された両手に片手ずつ手を乗せる。


 「今から流すよ。もし痛かったりしたらすぐ言うんだよ」

 「痛いんですか?」

 「人によるね。ほとんどの人は平気だから、そんな心配そうな顔をしないでくれ」


 お父様の手と触れているところから、何やら温かい感覚がしてくる。ちょうどいい温度の温泉に手をつけているような……。

 なんだ平気じゃんと思った瞬間、全身にぞわぞわとした、まるで全身の血管の内側をなぞっているような感覚が走った。


 「ふわあああああ」

 「大丈夫かい?!」


 慌てたヘンディアノからパッと手が離されると、不思議な感覚はスッと消えていく。


 「ちょっとぞわぞわっとしただけです。これが体内魔力ですかね」

 「そうだよ。ああ、魔力は遺伝性が強いもので、家族間だと魔力の性質が似ているものが多いんだ。性質が違う他の人の魔力だと違和感が強くて気持ち悪くなったりするだろうから、気を付けてね」

 「分かりました」


 手をにぎにぎしているうちに、ぞわぞわは完全に消えていった。その様子を見て安心したのか、ヘンディアノは「よしっ」と立ち上がる。


 「今日はこのくらいにしておこうか。また何か変な感覚がしたら、すぐに私のところに言いに来るんだよ」

 「はいっ!ありがとうございました」


 ザ・魔法って感じのやつはできなかったけど、これだけ分かったことがあるんだし、大きな成果だよね。早く字を覚えて自主練できるくらいまでにならないと!



 ◇



 

 フレージアに魔法を教えた日の夜、僕は自室でロザリナと軽く酒杯を交わしていた。去年の葡萄酒は質が良かったので、1年近くたった今でも変わらない美味しさを感じられる。

 

 「フレージアに魔法を教えたのでしょう。まだ早いかと思っていたのだけれど、大丈夫だったの?」

 「僕もそう思っていたんだけど、杞憂だったよ。驚くほど飲み込みが早くて賢い。途中から説明を少し難しくしてみたけど、ついてこれてたしちゃんと理解もしていたようだよ。当時の僕よりも圧倒的に頭がいいね」

 「そう……。わたしがフレージアが小さいころにあまり一緒にいてあげられなかったせいかしら。あの子たちにはまだまだ子供でいさせてあげたかったのだけれど」


 ごめんなさいね。と、ここにはいない子供たちを優しく撫でるようにロザリナが小さくこぼした。ろうそくの明かりに照らされた横顔は、口元は笑っていながらも悲しんでいるような、慈しんでいるかのような表情をしていた。

 すぐにこう後ろ向きな考えになってしまうのは、君の昔からの悪い癖だね。


 「大丈夫さ。確かにあの子たちは他の子供よりも大人びているところはあるけど、最近またとても子供らしく明るくなった。それに少々背伸びしているくらいがここではちょうどいいと思うよ。僕たちが子供のころに苦労したからね」

 「あら、あなたたちが幼かったころに苦労したのは2人だけではないのよ」

 「その節に関しては本当に申し訳なかった。感謝してもしきれないよ」


 僕たちが子供だった頃を思い出したようで、ロザリナがクスクスと笑う。また笑顔が戻ってきてくれたようで何よりだ。

 一度2人の間に沈黙が落ちる。深夜の静けさの中、皆より一足早く羽化した夏虫の声がどこからか聞こえる。


 「……あいつにも、戻ってきてもらう必要があるな」

 「またしばらく賑やかになりそうね」


 賑やかになると言って笑ってくれるロザリナには本当に感謝の言葉しかない。ヘンディアノはこれから巻き込まれていくだろうことを忘れられたらとばかりに、ワイングラスの底に残っていた酒をあおった。



ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

魔法ってすごいですね!

今後フレージアもどんどん使っていくことになるでしょう。


ここでこの世界の豆知識。

公的な場での男性は主にわたし女性はわたくしを使い、私的な場である家など、仲のいい友人同士では、僕や俺、わたしを用いることが多いです。

もちろん、そんなことを気にしない人もいますが……

フレージアの両親は、子どもたちの教育のために家の中でも公的な言葉遣いをしています。

部屋の中だからこそある二人の珍しい姿にも、ぜひ注目してみてください。

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