この世界で見た初めての魔法
魔法?!魔法があるのか?!
食事の後も、夕食まで各々の時間だ。普段であれば、庭を散歩したり、お母様や兄姉と遊んで過ごすのだが、今日は違った。
「それでフレージア、話とはなんだい?」
「はい、お父様」
今日は数日前から約束していた通り、お父様に直談判するための時間が設けられていた。ティリアが用意してくれた甘いアイスティーを一口飲んで喉を潤し、話を切り出す。
「お父様、わたくしもお兄様やお姉様のように勉強をしたいのです」
「勉強?まだフレージアには少し早いんじゃないかい。まだ6歳になったばかりだろう」
私って6歳だったんだ。その割には体が小さい気もするけど。
「勉強に遅いも早いもありません!お願いしますお父様!」
この世界について知るためにも。あと魔法がないか調べるためにも!
「う〜ん。勉強自体はやってもいいと思うよ。やる気もあるようだからね。ただ、7歳にもなってない子供に教えてくれる教師がいるかどうか……」
「いないのですか?!」
「フレージアは同じ年頃の子よりも大人びているけど、やんちゃな子も多いからね。引き受けたがる人は少ないんだ。アスターも、昔はじっとしていられないタイプだったし」
なんと!あのお兄様にやんちゃ時代が!くっ、なんでちゃんと覚えてないの過去の私!
「んー……。じゃあこうしようか。教師をつけるのは7歳から。フリージアはまだ字を覚えていないだろう。だから7歳までに字と簡単な言葉を覚えよう。だが、もし7歳になるより早く覚えられたら、ツテを使っていい先生を探してあげるよ。どうだい?」
「分かりました!!」
やったね!これで一歩前進できるよ!大人たちにとっては小さいかもしれないけど、私にとっては大きな一歩なんだよ。食い気味すぎて、お父様がちょっと引いてるけどね。
「あ、ああ。やる気に満ちているようでなによりだよ……。字の勉強は私が見てあげよう。最初は難しいだろうが、一度頑張ってみるんだ」
「私もお手伝いいたしますよ、お嬢様」
「ありがとうございます。お父様、ティリア」
そうだ、とお父様が手を打つ。
「確か、図書館に私が幼い頃に使っていた本があったはずだ。時間はあるかい?今から探しに行ってみよう」
◇
私たちは話をしていた食堂のようなところから出て図書館に向けて歩いていた。
「この家に図書館があったんですね。どこにあるのですか?」
「北の棟だよ。フレージアの部屋からは少し遠いけど、大丈夫かい?」
「大丈夫です。これくらい余裕ですよ!」
前世の記憶を取り戻してからというもの、部屋でこっそり筋トレをしているのだ。転生物といえば子供時代が肝心で、みんなして修行で心身を鍛えていた記憶がある。
この世界に筋肉が必要かは分からないけど、あるに越したことはないかなって。おかげで少し体力もついたし、屋敷を歩き回るくらいなら余裕だよ。
応接室や、客室があるらしい東棟を経由して北棟へ向かう。東棟はあまり使うことがないらしい。北棟に入ってすぐのところにある大きな両開きの扉を開けてもらうと、古い本の匂いが鼻を突いた。
「ここが図書館……。広いですね……」
「本もたくさんあるだろう。2代目領主のあたりから少しずつ増やされているんだ。いわば、ブロムキント家の歴史だね」
思ったよりも早く着いた図書館は、それはもう圧巻な景色だった。背の高い本棚に本が敷き詰められており、それが1階の広い空間を埋め尽くすほど並んでいる。それだけでなく、吹き抜けの2階の高い壁にも、所狭しと本が並べられている。蔵書は軽く5万は超えるだろう。
採光のためというには大きくて透明度の高い窓から、午後の暖かな日差しが降り注いでいる。本が傷まないか心配だ。
なんで図書室とか資料室とかじゃないんだろう、って思ってたけど、これは確かに図書館と言っていいかもね。前世では本の虫と言われるほど本は好きだったし、読み放題の本が家にこんなにあるのは嬉しいね。
現代では安価で買えてたけど、こういう世界では本って高級品じゃないのかな。もう結構普及しているとか?
「お嬢様、迷子にならないようにお気を付けくださいね」
「部屋の中なのに迷子になることがあるの?」
「小さな子供にとっては本棚が大きくて視界が悪いのです。本棚の形もそれぞれ違うので全体を見通せずまるで迷路のようになっていて、走り回った子供たちがよく迷っているのですよ。」
確かに、1階に並べられた本棚をよく見ると意匠が違うし、大きさ形もバラバラだ。前世の図書館のように揃えられていない。これは確かに迷うかもしれない。ティリアの手を握っとこう。
「フレージア、ティリア、準備ができたよ。早速始めようか」
「準備ですか?なにをするんです?」
紙とペンを持ったヘンディアノが入り口付近で話していた私たちに声をかけた。お父様は「まあまあ、見てなさい。」と言い、紙にペンで書き込んで何かをつぶやく。
「アウフダッテ」
「わあ……」
手の中の紙は下の方から金色の炎を上げ、A4ほどのサイズがあった紙は一瞬で燃え切ってしまった。散り散りになった金の炎はそのままふわふわと空中を漂い、やがて本棚と本棚の間の道にするりと入っていく。
「さあ行こうか」
「え、ちょっと、本に火はダメなのでは!」
「大丈夫ですよ、お嬢様。あの火は燃え移りませんから」
えええ何それ。すっごい異世界だね。火が本に燃え移らない?お風呂が無かった時以来の異世界カルチャーショックなんだけど。
やがて火の粉は1つの本棚の前で止まり、高いところでふわふわと舞った。
「なるほど、あれだね」
ヘンディアノが火の粉の側にある小さめの本に手を伸ばすも、いくら背が高いとはいえ3メートルほどの高さにある本は届くことはなかった。しかし、伸ばした手を小さく動かした瞬間、どこからかフワッと吹きぬけてきた風が本を巻き上げた。本はふわふわと下りてきて、ヘンディアノの手の中にスポッと納まる。
「はい、フレージア。この本を使うといいよ」
「お、おお父様!今のはいったい何なのですか!」
図書館にはガラス張りの大きな窓があるが、風が通り抜けるような扉はない。それにあの手の動き、金色の炎。これはもしかしなくても……
「ああ、魔法のことかい?そういえばフレージアにはまだちゃんと教えたことが無かったね」
「魔法!本当に魔法なんですね!!」
「嘘を言うわけないだろう。本当に魔法だよ」
魔法だ!魔法があった!無いかもって思っていた矢先、こんなに早く見つかるとは思ってなかったよ。嬉しい誤算!異世界最高!
「お父様、わたくし魔法をやってみたいです!お願いします。教えてください!」
「きゅ、急にどうしたんだい?字の勉強をするんだろう」
「字の勉強も、魔法の勉強もどちらもやります。ちゃんと真面目にやりますから」
「そんなに魔法に興味を持っていたとはなあ。……だけど魔法は危ない部分もあるんだよ。教師がついたらたくさん教えてもらえるから、それを待てないかい?」
「そ、そんなあ」
せっかく魔法が使えるようになるチャンスが目の前に転がってるというのに!教師なんて待ってられないよ。……お母様に髪を洗うのをお願いしたときみたいに、泣き落としでいけないかな。
ためしに、少し顔をうつ向かせて横髪で目元を隠し、フルフルと肩を震わせてみる。すると、お父様はすぐ動揺しだした。
うーん、我ながら名演技。
「よいではありませんか、旦那様。フレージアお嬢様はお利口ですし、勉強は興味を強く持っているうちに始めておいた方がいいものですよ。それに旦那様方も幼い頃は自分たちでこっそり魔法を使って怒られていたでしょう?それに対してお嬢様は誠実にやってみたいと旦那様を説得なさっているのです。子供の願いとやる気を尊重し、それを伸ばすことこそ親の務めでしょう」
え、そんなことしてたの?じゃあお父様だけずるいじゃん。
「分かった分かった。じゃあ、今日試しに魔法の基本的な内容を勉強してみよう。そして字をある程度覚えたら本を使いながら魔法を使ってみる。これでどうだい?」
うーん。本当は今すぐ使ってみたいところだけど、まあ妥協点といったところか。
「分かりました!すぐに字を覚えてみせます」
さっさと泣きまねをやめ、くるりとティリアに向き直り、そのよく筋肉がついた安心感のある腕に飛びつく。
「ありがとうティリア!ティリアの一押しのおかげよ」
「いつもフレージアお嬢様が言うことをよく聞く良い子なおかげですよ。お勉強がんばりましょうね」
お父様が、「私は……私も……」とそわそわしていたので、お父様にも抱き着いてあげておいた。私の保護者で貴重な教師でもあるんだもん。関係は良好にしておくに限るよね。
読んで頂き、ありがとうございます!
魔法ありましたね~。よかったねフレージア
次のお話はお父様による魔法の授業!
明日出せたらなーと思っています




