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爆速行軍 騎士団カイゼル隊

 王都行きが決まった後、私の準備を含む今後の予定が組まれた。特に私は報告のために王都へ帰る一部の騎士団に守ってもらう形で一緒に行くので、本当に残りは10日しか残されていない。バタバタだ。


 「王都へ行くとなった以上、子どもとは言ってもある程度の礼儀作法は必要よね。特にしゃべり方は練習したほうがいいわ。ここ半年でかなり成長したけれど、まだまだ粗いところがあるようだから」

 「文字はもう分かるんだろう。なら、計算とある程度の歴史、それから貴族同士の関係を叩きこめば十分か……」

 「もう少し身を守るための魔法を教えておいた方がいいかもしれないよ」


 と、これらは保護者の皆さんの言葉だ。おかげで出発の日まで勉強漬けの予定になっている。


 「ほらフレージア、さぼらないの。今日はあと少しだけなんだから頑張って」

 「はーい」


 勉強をしないといけないとは言っても、今までのようにお父様たちから教わるわけではない。騎士団の対応に追われるお父様たちに代わってお姉様に色んなことを教えてもらっている。次の冬からお兄様が行っている魔法の学校に入学するお姉様であれば、現状必要な知識は教えられるだろうと考えられた結果らしい。なんというか、かなり人使いが荒いような気もしなくもない。

 ついこの間誘拐されていたはずなんだけどな。お金について教えようと奮闘してくれているお姉様からは、全く悲観や恐怖のようなものは感じられないよ。


 「その、お姉様。本当にもう大丈夫なのですか? トラウマのようなものとか……」

 「え? 本当に平気よ。確かに少し驚いたけれど、クラフラスが守ってくれたし、クリモフがすぐ近くにいると気づいていたもの。それに叔父様、すごくかっこよかったのよ! 魔法も使わずに、たくさんいた悪い人たちをあっという間に捕まえてしまったの! こう、えいっえいって」


 ……おや? 無邪気にきらきらと笑うお姉様の頬がすこーし赤いような……。心なしか空色の瞳もいつもよりキラキラしているような……。おやおやおや?

 う~ん。心配して損したとまでは言わないけど、怖い思いをしただけじゃ無さそうで安心したよ。……ファイト叔父様。どんまいお父様。

 はっと我に帰ったお姉様に促され、勉強を再開する。話し合いから3日経った朝、今読んでいるのは去年のブラフヘルメルの物価調査の資料だ。なぜこんなものを読んでいるのかというと、お金の計算と物の大体の値段を覚えるためという話だ。


 「それではフレージアさん、ユール銀貨でこの商品を2つ買うにはいくら払えばいいでしょう」

 「えっと……1つ2ユール3エーレなので、5ユール払って4エーレ受け取る、だと思いますリリアナ先生」

 「正解です! 」


 この世界にあるいくつかの国の共通貨幣として、ユールとエーレというものが使用されている。リンゴのような果物1つが1ユールなので、おそらく1ユールは150円くらいの感覚でいいのではないだろうか。そして、10エーレで1ユールとして取引ができる。10進法がメインに使われているようで、とりあえず一安心だ。


 「では次に、この中から167ユール3エーレを選びましょう」

 「うっ、この中からですか……」


 目の前には大量の銀貨と銅貨が並べられている。よーく見れば模様が少し違うが、額の違いは大きさで確認するしかない。


 「まずは3エーレからで。銅貨3枚でいいですよね」


 チラッとお姉様を見ると、うんともいいえとも言わずにこにこしている。

 銅貨は1種類だけ、全部1エーレだ。価値は15円くらいだろうが、1円玉みたいなものだろう。167ユールなら1番小さい銀貨を2枚、ほんの少し大きい5ユール銀貨を1枚。次に10ユール銀貨を6枚。これはなんと模様がバラバラなのだ。大きさで見極めていくしかない。最後に100ユール銀貨だ。これは他よりかなり大きくて分かりやすい。花祭りのときにお小遣いとしてもらっていたのも100ユール銀貨だった。

 あのとき10枚もらっていたはずだから、えっと……15万?! 私だけで? 金持ち貴族やばすぎる……。


 「これでどうでしょう」

 「いち、に、さん……ぴったりね。正解よ! 」

 「よかったぁ」


 普段生活するにあたっては100ユール代の計算ができれば十分らしい。どれもこれもしっかりした重みがあるので、たくさん持ち歩くとなると大変そうだ。


 「100ユール銀貨よりも大きい単位のお金はないのですか? 」

 「一応あるわ。1000ユール金貨と10000ユール大金貨ね。わたくしは見たことないのだけれど、大金貨なんて下手すれば小さな国が1つ買えるわ」

 「ひぇ」


 お姉様は人に教えるのが上手いようだ。要領もよく、分かりやすい説明をしてくれる。できたらたくさん褒めてくれるのも、かっこよお姉様ポイントが高い。

 本人の性格も優しいけど強かだし、本当に学校の先生とか向いているんじゃないかな。


 「お金についてはこれくらいよ。思っていたよりもずっと計算が得意みたいね。分からないところはないかしら」

 「大丈夫です。お姉様が分かりやすく教えてくれたおかげですよ」

 「ならよかったわ。あとお父様に言われていたのはブラフヘルメルの産業と交易についてね」

 「確か生花が主産業でしたよね」

 「そうよ。それも花の領地と呼ばれる理由の1つなの。あとは、外国との交易品を売ったり、他の領からの観光客を受け入れることで収入にしているところもあるわ」


 なるほど。ブラフヘルメルは割と観光都市的な側面もあるみたいだね。

 「こっちに来てみてちょうだい」と言うお姉様について行って部屋の大きな窓から外を眺める。3階にあるお姉様の部屋からだと、1階にある私の部屋よりも遠くまでよく見えた。


 「あの木が並んでいる所の近く、黒いところがあるでしょう。あの辺りがすべて花畑よ。一斉に咲いた景色はとても奇麗なのよ」

 「素敵ですね……。あの大きな建物は何ですか? 花畑の中にあるみたいですが」

 「あれは風車ね。地下の水をくみ上げたり、風の力を使って麦を挽いたりもしているわ」

 「そうなんですね。花畑の中の風車だなんて、すごく風情があるというか、素敵ですね」

 「ちなみに、あの畑は何も育てていないけれど、花が育てない冬の間だけ野菜を育てている畑もあるわ」


 おお、輪作というやつだ。

 教科書でやったところだ、と感動しながら周囲を見渡していると、遠くの方に人影が見えた。それも1人2人ではなく、20人近くいるように見える。


 「あ、お姉様あの人たちは何をしているんでしょう。結構人数が多いようですが、このあたりに住んでいる方々ですかね」

 「あれは……騎士、団じゃないかしら? 」

 「え? 」



 ◇



 「王都を出てまだ4日目のはずだけれど、何があったらこんなに早く到着するんだい」

 「出発してすぐは普段通りのスピードで行軍していたのですが、途中で騎兵舎の用意が必要なのではと思い当たり、その後全速力で向かってきた次第です。みな久しぶりの帰郷に気持ちが高まっていたということもあるとも思います」

 「それ自体はありがたいのだけれど……あまり無理はしないように」


 私たちが見た人たちは本当に王都から来た騎士団だったようだ。大慌てでお父様に報告をしていると、ほどなくしてリーダーにあたるのであろう朱色の髪の青年が挨拶に来たのだ。玄関口の応接場での話し合いに私たちも同席させてもらっているが、人当たりもいい爽やかな人だ。鈍く光る銀色のフルアーマーに鮮やかなマリーゴールドのマント、鮮やかな緑色の瞳はキラキラと輝いていてとても眩しい。


 「お嬢様方にお会いするのは初めてですね。ご挨拶をさせてください。王国騎士団カイゼルスコール隊、略してカイゼル隊副隊長のクラリアスと申します。私を含め、うちの隊の騎士は皆(みな)ブラフへルメル出身ですので、今回の調査及び護衛に選ばれた次第です。数日の間になりますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 「ブロムキント家長女のリリアナと申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 「ブロムキント家次女のフレージアと申します。お父様に王都までの護衛をしていただくと聞きました。よろしくお願いします」


 美しいカーテシーで挨拶を返すお姉様の横で私も頑張って自己紹介する。お姉様と比べればまだまだ見劣りするだろうが、「ご丁寧にありがとうございます」と優しく返してくれた。


 「急いで来てくれたところ悪いけれど、7日かかる想定をしていたし、まだ受け入れる準備も完全には整っていないんだ。だから調査は明日からにして、今日これからは家族や友人に会いに行く時間にしてくれ。夜までに休める場所は整えておくよ」

 「かしこまりました。ご配慮ありがとうございます。皆喜ぶでしょう」


 お父様とクラリアスが今後の行動予定について話し合っていると、すぐそばの2階へと続く大きな階段から叔父様の声が聞こえてきた。どうやら騎士団の到着に気が付いたらしい。


 「誰か、誰かヘンディアノの居場所を知らないか、ってそこにいたのか……ああ! やっぱりクラリアスだったのか! 」

 「お久しぶりです、ヘリアス様。お戻りになられていたのですね」

 「ああ。少し前にな……。いやお前たち早すぎないか。ティリアが腰を抜かすぞ」

 「ティリアたちには先ほど会いましたよ。腰は抜かしていませんでしたが、絶句していましたね。連絡手段があれば事前に伝えられたのですが」

 「できないことを惜しんでも仕方がない。正直人手が増えるのは大歓迎なんだ。少々の手数を煩う気はないよ。……ほらヘリアス、そこにいるんなら騎兵舎の掃除を手伝ってくれ」

 「りょーかい」

 「わたくしたちにお手伝いできることはありませんか」


 その瞬間、3人の間で素早く視線が交わされた……気がした。

 なんだか謎に強い絆のようなものがあるような。


 「いや、大丈夫だ。頼むから安全な場所に居てくれ」

 「この屋敷の中にいれば、ドラゴンでも来ないかぎり危険にさらされることはありません。騎兵舎は外にありますから、お2人の気持ちはありがたいですが止めておいた方がいいと思います」

 「もうすぐロザリナの手が空くはずだから、作法の練習を見てもらうのはどうかな」


 完全に真正面から断られてしまった。騎兵舎は敷地外にあるらしく、庭に出るのも禁止されている今では到底行けるはずもなかったようだ。


 「分かりました……」

 「ここで皆さんを応援しておきますね」


 椅子に座ってばかりだったから、久しぶりに体を動かしたかったんだけどな。



ご覧いただきありがとうございました!

親元を離れる前までにはお金のことを教えておきたいなと思い続けた結果、かなり出発ぎりぎりになってしまいました。

なんとか間に合って安心しました。

それにしてもカイゼルスコールの皆さんは速すぎませんかねぇ。

もともとこんなに早く着く予定ではなかったのですが……

気持ちを急きすぎた結果のようですね。久しぶりのブラフヘルメルだったようですし。

何があるか分かりませんね。

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